ファッション専門学校の案内を兼ねて、各専門学校の歴史を簡単にふりかえり教育体制のグローバル化をたどります。
ファッション系の専門学校は服飾系専門学校ともよばれます。
むかしは裁縫専門学校や洋裁専門学校といわれ、家庭裁縫向けに洋服のつくり方を教える洋裁学校として発展してきました。
戦後の洋服系専門学校は膨大な数を誇っていました。
ファッション系専門学校の変化
1970年代になると服作り(裁縫)を行なう若者が急減し、ファッション系専門学校は産業界に人材を送り出す産業教育の時代を迎えていきます。
1990年代にはコンピューターの普及によってCADシステムがアパレル産業に導入されデザインを担っていくようになります。
その前後で、古い産業教育を受けた方と新しい教育を受けた方とのギャップによって技術継承が難しくなりました。
さらに1990年代、ファッション系専門学校の経営が厳しくなりました。理由はいくつか考えられます。
- 服作り(裁縫)に関心をもつ若者が減った
- アパレル産業が構造変化してデザイン重視になった
- 少子化のもとで大学に進学する若者も増えてた
現在の有力校
アパレル産業に人材を供給する有力校には次のような学校が挙げられます。
これらの学校の多くで今はアパレル産業の即戦力となる人材を育成しています。
服飾系専門学校の教育課程もデザイナーやパタンナーなどを目指すデザイン・技術系、そして、マーチャンダィザーや販売職を目指すビジネス系に大別されています。
就職してからの注意
通勤
アパレル産業は典型的なブラック労働・ブラック企業といわれる面もあり、学校を卒業したからといって直ぐに花型デザイナーになれるわけではありません。
多くは、CADと向き合うパタナー、営業、ショップ店員、海外工場との連絡係などです。ルーチンワークがほとんどでも継続的に仕事をするというスタンスが大切です。
在宅
他方で見落とされやすいのが自営業でアトリエを営んでいる方々です。製図・採寸・裁断・手縫製・ミシン縫製をできる人たちはアパレル会社に勤務したのちに独立して店を開く方も多くいらっしゃいます。
売上は大変でも自分の時間に少々の融通を利かせることができます。私の妻もその一人です。
学校運営・経営対策
学校運営の悪化は学生減少という形で露骨に現われてきます。
経営悪化を打開するために、この20年間、ファッション系専門学校ではいくつかの施策を講じてきました。
代表的な施策は次の3点です。
- 専門教育の重視
- 高度な知識や能力をもつ人材の育成
- 専門教育のグローバル化
です。
順に詳しく見ていきましょう。
裁縫専門教育の再重視
デザインや商品開発を行なう企画職の採用枠は狭まっています。各校はビジネス教育を拡充してきましたが、一般的な内容では大学・短大、他分野専門校との競合が激しいデメリットがあります。
そこで服づくりに関する高度な専門知識を身につける方針が重視されはじめています。販売職として採用されても有利だという判断からです。
高度な知識や能力をもつ人材の育成
現在はアパレル産業だけでなく多くの産業や企業で、国際的に通用する人材の育成・確保が企業成長の条件とされています。
これに対応するために既存学科の修了者や大学卒業者を対象にした上級コースがあいついで設けられています。大卒者を入学させようという方針は語学の壁を超えたいというところでしょうか…。
グローバル化
大学と同じで、ファッション専門学校のグローバル化は海外の提携校を増やすかたちで進んできました。
先ほどピックアップした有力校からグローバル化、とくに海外との提携をみてみましょう。
- エスモード・ジャポンはデザイナー志望の学生から人気を集めています。その理由はパリに本部を置く国際性と独特の教育手法にあります。近年、サステナブル教育をカリキュラムに取り込みました。
- モード学園はパリのクレアポール校を傘下にもっています。
- ドレスメーカー学院は中国・浙江工程学院(中国浙江理工大学)、モスクワ国立繊維大学と提携。
- 文化服装学院は中国・上海の東華大学(旧中国紡織大学)と合弁で学校を新設しました。既に日本よりも発展した中国でファッション産業の人材交流に貢献しようとしています。
これらの動きの背景には、繊維ファッション産学協議会の行なう産学交流プロジェクトの進展が関わっています。
学校別にみる教育体制のグローバル化
この20年間を中心に有力校が具体的にどのようにグローバル化を展開したか、もう少しくわしく学校別に見てみましょう。
上田安子服飾専門学校
1916年4月までに8校と姉妹校提携をしています。海外校との提携に動いたのは1916年です。交流協定を次の学校と結びました。
中国の大連工業大学、台湾の嶺東科技大學、イタリアのアルタ・スコウラ、アルス・ストリア、マランゴーニ、フランスのカミユ クローデル・マナ、ベトナムのHUTECH University of Technology、マレーシアの「マネジメント・サイエンス大学」です。
詳しくはこちらをご覧ください。
エスモード・ジャポン東京校・京都校
ナポレオン3世の宮廷服飾師だったアレクシス・ラヴィーニュが1841年にパリに世界初のファッション専門教育機関を創設したのが始まり。フランス校ではティエリー・ミュグレー、エリック・ベルジェール、フランク・ソルビエらが巣立っていきました。
そのためフランスとの提携が強いです。また、姉妹校提携ではなく分校として広がってきています。世界13ヶ国20校で展開とあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
大阪文化服装学院
もともとは1946年に創立した三国洋裁女学院が前身です。
1951年に大阪服装女子専門学校へ改称し、翌1952年に文化服装学院連鎖校として認可され大阪文化服装学院と校名変更しました。
学科は5つに分かれていて、そのうちスーパーデザイナー学科では卒業者には高度専門士として4年制大学卒業と同等の学位が授与されます。
大阪文化服装学院の公式サイトでは海外提携や海外留学の情報を得られません。
織田ファッション専門学校
2019年3月14日現在で「海外研修・留学制度」のページが存在しませんでした。
パリにある「エコール・ド・ラ・シャンブル・サンディカル・ド・ラ・クチュール・パリジェンヌ校」と姉妹校提携を結んでいる説があります。
ここに特待生として留学できるとのこと。いわゆるオートクチュール組合(サンディカ)の付設学校ですね。
公式サイトトップはこちら。
ドレスメーカー学院
モスクワ国立デザイン技術大学(RUSSIA)と日露服飾協力協定を結んでいます。浙江理工大学との交流は10年以上にわたり講師派遣を中心に継続。研修旅行はニューヨーク州立ファッション工科大学に毎年3月に行っています。
詳しくはこちらをご覧ください。
文化服装学院
海外提携校は年々数を増しています。
現在、学園全体で12ヶ国33校、大学は3ヶ国5校、学院は4ヶ国9校、外語は1ヶ国1校となっています。
中国との提携が多く、北京服装学院、東華大学(服装学院・芸術設計学院)、武漢紡織大学、魯迅美術学院(魯美・文化国際服装学院)の4校を確認できます。
ヨーロッパではイギリスのロンドン芸術大学参加の各専門学校との提携が多数。ドイツに1校、イタリアに2校がありますが、フランス国内の提携校はありません。
詳しくはこちらをご覧ください。
マロニエファッションデザイン専門学校
海外姉妹校の情報は得られませんでした。業界とのコラボレーションに力を入れています。
コラボの内容は、ファッション撮影プロジェクト、産学連携リアルショップ、人気バンドと人気モデルの衣装を制作、スタイリストアシスタントなどです。
詳しくはこちらをご覧ください。
モード学園
モード学園はパリ校をもっているのを思い出しました。
学園のキャッチフレーズは面白いです。
地球サイズの教育ネットワーク環境を整えています。(地球サイズの教育ネットワーク環境|専門学校 東京モード学園)
モード学園には校費留学制度があります。
海外留学期間は単位認定制度が適用されます。
パリを拠点とするモード学園国際本部は、海外留学や就職の斡旋、国際セミナー開催、各国の専門学校や大学との交流・情報交換を実施。インターナショナルなモード環境をより完璧なものにするために活動しています。 (地球サイズの教育ネットワーク環境|専門学校 東京モード学園)
パリを拠点に、留学先はフランス、イギリス、イタリア、アメリカの専門学校や大学へと広がっています。
具体的な留学先を次に挙げます。
フランス
- クレアポール<モード学園パリ校>
- スタジオベルソ
- パリ・クチュール組合学校(シャンブルサンディカル)
- アカデミー・インターナショナル・ド・クープ・ド・パリ(AICP)
- クリスチャン・ショボー アート・メイクアップ学院
イギリス
- セントマーチン美術デザイン専門学校
- ロンドンファッション専門学校
- ロンドン芸術大学
- UCCA芸術大学
イタリア
- マランゴーニファッション学院
- ヨーロッパデザイン学院
アメリカ(メイクアップは除外)
- ニューヨーク州立ファッション工科大学
- パーソンズデザインスクール
- ノース・テキサス大学
「パーソンズ・デザイン・スクール」に行けるのはナイスです。
ハリウッド映画の衣装を担当したファッション・デザイナーたちは結構ここの学校を卒業していました。
たとえばトラヴィス・バントン、ギルバート・エイドリアンたち。
映画関係じゃないデザイナーにも卒業生が多いです。たとえば、クレア・マッカーデル、アイリーン・シャラフたち。
詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
ここでは、各専門学校の歴史と教育体制のグローバル化をたどりました。
この20年間、ファッション系専門学校は経営悪化を打開するために施策を講じてきました。
- 専門教育の重視
- 高度な知識や能力をもつ人材の育成
- 専門教育のグローバル化
ファッション専門学校のグローバル化は海外の提携校を増やすかたちで進んできました。この動きには繊維ファッション産学協議会の行なう産学交流プロジェクトの進展が関わっていました。
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