日本語の歴史:近世(安土桃山・江戸時代)編

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日本語の歴史:近世(安土桃山・江戸時代)編

  • 近世のはじめ…キリスト教の伝来とともにポルトガル語の外来語が普及しローマ字が開発
  • 近世のなかば…鎖国により独立色が強まり国学が隆盛し、外来語ではオランダ語(蘭学)が普及
  • 近世のおわり…鎖国が崩れ外来語が多様になり、ローマ字が再編

近世になると、近代日本語が芽生えました。日本語研究が活発になり、文化の担い手が民衆にまで広がりました。

5段活用が定着したり仮定表現に已然形が使われたり、文法が現代に近づきましたので、この辺りからみていきましょう。

文法

動詞

  • 4段活用が5段活用に変わりました。
  • ナ行変格動詞が5段活用になりました。(上方ではしばらくナ変のままで江戸がトレンドに)
  • 2段活用の一段化が進みました。「落つ」→ 「落ちる」、「告ぐ」→「告げる」など。
  • 仮定の表し方が「未然形+ば」から「已然形+ば」に変わりました。(これを受けて「已然形」は「仮定形」といわれるようになります)

形容詞

  • 江戸では「静かだった」「静かで」 「静かなら(仮定)」の用法が現われました。

助動詞

  • 受身の「〜れる/られる」や使役の「~せる/させる」が現われました。
  • 推量の「さうだ」、打消過去の「〜なかつた」、比況の「〜やうだ」、打消の「~ない」、断定の「~だ」が現われました。

語彙

  • 漢語が一般化して、民衆の日常生活に浸透しました。
  • 位相差が大きくなりました。
  • オランダ語からの外来語が現われました。「ガラス」「コーヒー」「ゴム」「ビストル」など。

文字・文体

  • 漢字訓読体と和薬混済文が正式な文章になりました。
  • 仮名文が口語調や俗語で使われました。
  • 擬古文が雅文とされました。利用者の多くは国学者。
  • 漢字を重視する傾向が強く、俗字も多用されました。俗字とは「门/門」「㐧/第」「円/圓」などで、「円」のように、1946年に新字体へ採用されたものもあります。

音韻

  • 「エ」「オ」「セ」「ゼ」の音が現代語音と同じになりました。
  • 「フ」をのぞくハ行子音が[h]に変わりました。またパ行音が確立しました。
  • 「四つ仮名」の区別が消滅しました。(じぢ/ずづ)
  • 合拗音「クワ、グワ」が「カ、ガ」に統合されました。たとえば「火事」ですとクワジ→カジ、「元旦」ならグワンタン→ガンタンなど。
  • 「開音・合音」の区別が消滅して[o]に統合されました。
音声学によるハ行子音の分類と近世の変化〔ファ(ɸa)フィ(ɸi)フ(ɸu)フェ(ɸe)フォ(ɸo)〕→〔ハ(ha)ヒ(çi)フ(ɸu)ヘ(he)ホ(ho)〕

研究史

近世のはじめ、日本語形成に大きな役割をはたしたのが『日葡辞書』です。この辞書はイエズス会が編集し、1603~1604年ころに出版されました。

これは日本語とポルトガル語の辞書で、日本語をローマ字綴りでアルファベット順に配列しています。収録語数は約32800語におよびました。

また、ジョアン・ロドリゲスは1604~1608年ころに『日本大文典』を出版しました。これは、当時の口語について書いた宣教師むけの日本語学習書です。ポルトガル語で書かれています。

これら、16世紀後半から17世紀前半にかけて来日したキリスト教宣教師が中心となって作成した文献を「キリシタン資料」といいます。

17世紀末ころから、日本では文法や仮名遣いが注目され(見直され)、近代日本語が形成されていきます。

和字正濫鈔:契沖/1695年

これは「定家仮名遣い」に見られる文字違いの誤りについて、平安中期以前の資料から正そうとしたものです。「い/ひ/ゐ、お/ほ/を、え/へ/ゑ、は/わ」「じ・ち・ず・づ」などです。

古言柳:楫取魚彦/1765年

これは、契沖が書いた『和字正濫鈔』を追加・修正したものです。

これら二つをまとめて「契沖仮名遣い」といいます。これ以降、第2次大戦直後まで正式な仮名遣いとされました。

てにをは組鏡:本居宣長/1771年

「係り結びの法則」を図示して『調王緒』で解説しました(1779年刊)。

御国詞活用抄:本居宣長/1782年ころ

これは用言の活用の研究書です。

この研究を鈴木朖(あきら)や本居春庭らが受け継ぎ、それぞれ『活語断続譜』(1803年ころ)、『詞八衢』(1808年出版)を書きました(後述)。

富士谷成章

富士谷成章は『かざし抄』(1767年)と『あゆひ抄』(1773年)で、語を4種に分類しました。

  1. 名(体言)
  2. 装(用言)
  3. 挿頭(動詞、代名詞、接続詞、副詞)
  4. 脚結(助詞、助動詞)

物類称呼:越谷吾山/1775年

最初の方言辞書です。

蘭学を研究していた志筑忠雄がはじめて鎖国という言葉を使いました。ドイツ人医師ケンペルは著書『日本誌』で、日本は長崎をとおして欧州ではオランダだけと貿易し、閉ざされた状態にあると指摘しました。蘭学者の志筑忠雄は1801年に『日本誌』を部分訳して「鎖国論」と名づけました。このように鎖国という言葉は成立当初から比喩的な意味をもっているので、江戸時代が鎖国ではなかったという理解は間違いです。ケンペル自身は日本の貿易・交渉相手国が少なすぎる状態を鎖国と言ったからです。

活路断続講:鈴木朖/1803年

鈴木朖『活路断続講』は本居宣長の『御国詞活用抄』の27種の語例を列挙したものです。活用を「一等」から「八等」に分類しました。

また、鈴木は「言語四種論」(1824年)を著し、単語を①「体ノ詞」②「形状ノ詞」③「作用ノ詞」④「テニヲハ」の4つに分類しました。

詞八衛:本居春庭/1808年

本居春庭『詞八衛』は、動詞の活用を①4段、②1段、③中(上)2段、④下2段、⑤変格(カ変、サ変、ナ変)の5種に分類したものです。

また、『詞通路』(1829年)で宣長の考えを発展し、動詞を自動詞・他動詞に区分しました。

和語説略図:東条義門/1833年

東条義門『和語説略図』(1833年)で、現代の4段活用、2段活用、1段活用、変格活用の分類を形成しました。

『活語指南』(1844年)では、活用形に、①将然言(未然言)、②連用言)、③断言)、④連体言)、⑤已然言、⑥希求言という6つの名称をつけました。

語学新書:鶴峰戊申/1831年(33年説あり)

日本語をオランダ語文法に倣って分析したものでう。 単語を9品詞に分けた。

和英語林集成:ジェームス・カーティス・ヘボン/1867年

日本最初の和英辞書です。見出し語数は20772語。

複数あるローマ字表記法のうち、いまの日本国内外でもっとも広く使われているローマ字を生みだした有名人です。

なお、この本を出版するために、ヘボンは岸田吟香をつれて上海へ渡航しました(米国長老派教会の印刷所「美華書館」で印刷)。

本文ではとりあげませんでしたが、近世とくに江戸時代、商業出版がスタートしました。たとえば『好色一代男』『日本永代蔵』『曽根崎心中』などです。
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