記念日の罠:デジタルの日から省庁の悪癖を考える

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デジタル庁とは、デジタルが死語になった時代の2021年9月1日に設置された日本国の行政機関です。

デジタル庁の目的はIT化を止めてDX化に向かうことにあります。

デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指します。https://www.digital.go.jp/about

インフラとは基盤のことですから、デジタル庁はトップに立ってデジタル社会形成を指導し、未来志向のDXを推進します。

デジタル庁の設置は、とてもスマートじゃない名前の「スマートシティー計画」の一環でつくられました。

この流れで私が諦めを覚える語彙が2つあります。インフラとスマートシティーです。

スマートシティーを構想するなかで、結局はインフラ整備にまい進して、デジタル化へのハード面の設備投資が中心となると予測します。

結果的には、電気工事からパソコンやタブレット配置などを徹底して、全国の各地域を一つも取り残さず、全国民の一人たりとも残さないハード面の投資を政府が突っ走ることになりそうです。

そこで喜ぶ人たちは、電気工事やパソコン・タブレット生産を行なうハード設備の業者たちだけでしょう。

IT化に乗り遅れた日本国がDX(デジタル・トランスフォーメーション)において何らかの進歩があるとはとても思えません。

すでにデジタルの日という趣旨不明の記念日がつくられてしまい、すでに暗黒の予感が漂っています。

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記念日の罠:デジタルの日から省庁の悪癖を考える

2021年9月1日のデジタル庁設置をうけ、2021年10月10日がデジタルの日となりました。

てっきり、1年に1度、この日に全国民にたいして最新タブレットでも配ってくれるのかと思っていました。

ありきたりだった「デジタルの日」

いざ蓋を開けるとたいしたことはありません。関連業界の著名人を呼んで蛸壺の人間関係にもとづいた、ありきたりの「デジタルの日」でした。

記念日は省庁の悪癖イベントになりがちです。

「電子の日」としなかっただけマシですが、その日だけ注目するような記念日の罠にデジタル庁がはまらないことを祈ります。

この省庁イベントで、デジタル庁の牧島かれん大臣は次のように述べました。

『デジタルの日』を設立した理由は、定期的に振り返り、体験し、見直すきっかけを作りたかったから。毎年この日がやってくることで、サイクルを回す、新たな体験をする。そんな日にしていきたい。https://www.digital.go.jp/posts/g7b3GZuP

一年に一度、デジタルを振り返って体験して見直すそうです。

毎日、私たちはデジタルを振り返り体験し見直してもいます。

デジタルの日にまでこのようにデジタルと付き合う必要があるでしょうか。

大臣の発言に見られるように、デジタルの日にはデジタルと付き合う目的があります。

デジタルの日を作ってまでデジタルと付き合う理由はただ一つ。デジタル庁がデジタルを使っていないからです。

デジタル庁の前身は内閣官房情報通信技術総合戦略室。戦略を感じない名前です。情報通信技術をITと呼ぼうがDXと呼ぼうが、カタカナやアルファベットを駆使するだけでなく、デジタル庁がデジタル化される事を私は強く祈ります。

必要だった記念日は「デジタル解放の日」

デジタル庁の仕事はむしろ《デジタルから解放される日を1日でも作れ》というデジタル解放の日(デジタル解放デー)を促進することでしょう。

非デジタル庁なのでもともと解放されてるんですけどね。

地元の商工会議所や地域自治体ならともかく、省庁が記念日を考えるとズレが目立ちます。

本来、デジタル庁は日常的にデジタルを使うことを推進し、デジタル技術の開発やインフラ整備を促進する機関のはずです。一年に一度振り返るだけで良いのでしょうか…。

省庁は日常的に業務を遂行する機関であり、また国民のプラットフォームを形成する組織ですが、デジタルの日のような祭事(政・まつりごと)ばかりが先行しまうことを記念日の罠といいます。

記念とは過去のものに使うのが無難です。

解放の日は遠い官公庁デジタル化の遅れ

官公庁のデジタル化の遅れは民間企業よりも酷く、消費者にすぎない国民レベルにすら勝てません。

新型コロナウイルスへの対処で、日本国政府をはじめ官公庁や地方自治体のデジタル化が何も進んでいなかったことが分かりました。

世界中の人たちが驚きとともに笑いとなったアイテムがファックスでした。

自分たちはFAXを知らないけど日本人たちは知っているという笑いです。日本人たちはFAXを使えてスゴいという嘲笑もSNS 界隈を賑わせました。

covid-19の対策にさいし、日本政府はITでほとんど何もできないことが暴露されました。

たとえば、定額給付金申請で、マイナンバーを使ったオンライン申請が可能とされました。

しかし、市区町村の住民基本台帳とマイナンバーが連携していなかったために、自治体の職員は照合のために膨大な手作業を強いられ、現場は大混乱。

その結果、100以上の自治体が定額給付金申請のオンライン受付を停止し、郵便での申請を要請しました。日本ではオンラインより郵送の方が早いという摩訶不思議な現象が生じたのです。

新型コロナウイルスの感染者数を把握する作業では、当初、FAXで情報を送って手計算で集計していました。

この作業で保健所に過大な負担がかかり、新システムのHERSYSが5月末に稼働を始めました。

しかし、このシステムが使いにいことから、東京都や大阪府は使わず、FAXに頼りつづけました。

霞が関の省庁間ではシステム仕様が違い、コロナ対策を協議するテレビ会議ができませんでした。強行するには複数の端末が必要でした。このようなわけで、デジタル庁とデジタルの日に疑心暗鬼が絶えません。

経済だけでなくデジタルにおいても日本は凋落し、 世界での地位を下げました。しかし、このことは日本国内で必ずしもはっきり認識されていません。

もはや戻ってこなかった浦島太郎や、誰も探せなかったガラパゴス島のような状態です。

世界デジタル競争力ランキングから、日本のデジタル技術(IT技術やDX技術)がどれほど遅れているかを見てみましょう。

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世界デジタル競争力ランキング

国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している世界デジタル競争力ランキングは、実データと政府幹部・企業幹部からのアンケート回答をもとに作成しています。

このランキングは、デジタル競争力ランキングを国際比較で簡単に理解できるものです。

政府や企業がデジタル変革に着手するときに、どこにリソースを集中させればよいか、何がベストプラクティスであるかを理解するのに役立ちます。

2021年版のランキングは2020年のデータをもとにしたものです。IMDが2021年9月29日に発表しました。日本国のデジタル庁が設置された同月末のことです。

以下では「World Digital Competitiveness Rankings – IMD」をもとに日本のランクやランキングの高い国の特徴を整理してみます。

日本のデジタル競争力

2021年版のデジタル競争力ランキングで日本は28位でした。ちなみに競争力ランキングは31位、人材ランキングは39位。

このランキングの対象国数は2021年版で64カ国。

後述するようにこのランキングで米国と中国が突出した能力を示していて、他の国々と大きな隔たりがあります。

ですから、ほとんどの国が中位レベルから下ということになります。となると28位の日本は中の中といったところでしょうか。

米国と中国がデジタル競争力で突出

このデジタル競争力ランキングでは米国が4年連続の首位となりました。中国は30位から15位へと15ランクアップしました。

IMDの世界競争力センター(WCC)によると、米国と中国のデジタル競争力について、知識移転、ビジネス状況、教育投資において互角に渡り合っています。

米国と中国は世界の2大経済大国でもあります。世界銀行によると、2020年のGDPは米国が20.9、中国が14.7(いずれも兆米ドル単位)でした。

米国のデジタル競争力モデルは市場原理にもとづいているのに対し、中国のデジタル競争力モデルは国家ベースです。

この点に違いがありますが、データ経済の観点からみると米国と中国はともに大きな存在です。

中国と米国はデータの輸入国

米国と中国は、両国を除いた国々と大きく隔たっています。米国と中国がデジタル競争力で突出しているのです。

中国と米国はデータの輸入国であり、それ以外の国々はデータの輸出国となっています。データ経済の観点からみると、海外のデータを使える国と使えない国に分かれているわけです。

米国と中国のデジタル競争力モデルから分かることは、デジタル化の方法は一つではないということです。

アジアのトレンド:中国と香港

中国の躍進は、近隣の日本・韓国・台湾を巻き込んだ幅広いランクアップの一環です。

地域競争力という点では、東アジアは科学教育、研究、ロボット工学、ハイテク輸出への投資において、北米や西ヨーロッパを上回っています。

香港特別行政区は2021年の5位から2位へと上昇しました。

香港経済は科学分野の卒業生が世界をリードしています。製造品輸出全体に占めるハイテク製品の輸出量が他の経済圏よりも多く、また、脅威やチャンスに迅速に対応できる企業の受け入れ先としてビジネス認識もトップクラスです。

「正しいこと」をする欧州

デジタル競争力ランキングは次の3国・地域がそれぞれの特徴をもっています。

  • 米国…デジタル経済が巨大な収益源
  • 中国…デジタルが支配の形態
  • 欧州…デジタル化やデータの流れを民主的かつ透明なものへ

欧州(ヨーロッパ)ではデジタル運用が民主的に行なわれているかを厳しくチェックします。そのため米国や中国に比べてIT系巨大企業の展開やビッグデータの活用には慎重です。それでもスウェーデンやスイスのように高いデジタル競争力をもつ国々があります。

まとめ

世界デジタル競争力ランキングでは米国・中国・ヨーロッパの3国・地域が目立ったポジションにいて、デジタル世界をリードしています。

これら3地域のデジタル化モデルはバラバラで、デジタル化の方法は一つではないといえます。しかし、日本が新しい方法を作れるとはとても思えません。

2021年9月1日にデジタル庁が設置され、その月末にはデジタル競争力ランキングが発表され、10月10日にデジタルの日が制定されました。

ランキングと同じペースでデジタル庁がデジタルを振り返ったりすることのないよう、しっかり現実をみた政策をしてもらいものです。デジタル庁がデジタルの日という記念日の罠にかかっては、元も子もありませんから。

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