シラバスとは詳しい授業計画のことです。
シラバスで有名なのは大学のものです。その多くは話題シラバスです(後述)。
教員が授業のカリキュラムをデザインするうえで、シラバスは中心的なコンテンツになります。
また、学生にとっては、授業を履修するかしないかを決めたり、どのような姿勢で授業を受けるかを計画したりする大切な手がかりになります。
この記事では、「大学設置基準」の求めるカリキュラムデザインを意識して、シラバスの書き方を説明しています。
シラバスの種類
語学教育から発展したシラバス
シラバスは語学教育で重視され発展してきました。
語学では語彙・文法・文型が基本となりますが、これらは19世紀までにヨーロッパで注目された観点です。
20世紀になるとアメリカを中心にさまざまな語学教育が提案され、それとともにシラバスも多様化しました。
語学教育を念頭においたシラバスには次のようなものがあります。
- 文法シラバス:品詞を単位に組みたてたシラバス
- 構造シラバス:文型・文法・語彙を単位に組みたてたシラバス
- 場面シラバス:場面や場所を単位に組みたてたシラバス
- 機能シラバス:動作や機能を単位に組みたてたシラバス
- 話題シラバス:話題(トピックやテーマ)を単位に組みたてたシラバス
- 課題シラバス:課題(タスクや目的など)を単位に組みたてたシラバス
- 技能シラバス:技能(スキル)を単位に組みたてたシラバス
多くがテーマ別に授業が進む大学では、話題シラバスが妥当な種類となります。
シラバスを書くにあたって、一つの羅針盤となるのがコースデザインによる教科書の選定です。
コースデザインとシラバス
コースデザインとは、学習者の学習目標を達成するために、何を教えるかというシラバスをデザインして、どのように教えるかというカリキュラムを具体的にデザインすることです。
- シラバス…何を教えるか
- カリキュラム…どのように教えるか
ですから、コースデザインには、シラバス作成だけでなく、どのような教材・教具を選択するかも大切になります。教材・教具をシラバスの種類やカリキュラムと関連づけて考える必要があります。
カリキュラムデザインは、授業をどのように教えるかを計画することです。シラバスの方針に沿いながら、授業の時間的条件やクラスサイズを考慮します。
大学教育では、ふつう、カリキュラムデザインは学部を単位に決まっていますから、学部の教育方針に沿ったシラバスを書くことが大切です。
教科書の選定
逆説的な言い方ですが、教科書は特定のシラバスにもとづいて作成されています。
話題シラバスでコースデザインをするなら、話題シラバスむけの教科書を選びます。履修生や学習者のニーズや学習条件を考慮して最も適した教科書を選択する必要があります。
教科書や参考文献は単著本から選ぶ
教科書の選定で大切な点は著者が一人で書いていることです。著者が一人で書いた本を単著本といいます。
研究者や教員が複数で書いた教科書(共著本といいます)の多くは、自分の専門領域だけ好き勝手に深く書いたり手を抜いて書いたりしたものです。教育は責任をともなう作業ですから、視点がブレやすい共著本はオススメできません。
教科書だけでなく研究書や専門書にもいえることですが、単著本は著者ひとりに責任の重圧がかかるため、その分、ブレが少なく、またトータルに説明していることが多いのです。
教科書を選ぶことは大切ですが、すべての点で教科書が授業の目的に適するということはありません。
教科書を制作した著者や機関でさえ、短期間のうちに学習者のニーズとズレを感じるものです。
たとえば、定義を丁寧に書いているのに事例が古すぎるという教科書です。
こういうケースは大学の授業あるあるです。教科書の限界を補うのが参考文献です。
参考文献も単著本から選ぶのが妥当です。ある本の限界は別の本で補えます。
教科書を軸に、適宜、参考文献を組み合わせていくように教材を選びましょう。
よく言われるように、授業で目指すところは教科書を教えるのではなく教科書で教えることです。
大学教育のシラバス
シラバスで有名なのは大学のもので、多くは話題シラバスに基づいています。
大学のシラバスはウェブや冊子の履修要項に載っています。
ふつう、シラバスには次のような項目が書いてあります。
授業名、担当教員名、授業目的、授業概要、授業各回の主題、成績評価方法と評価基準、準備学習(事前学習や事後学習)、テキスト(教科書)・参考文献、履修条件、他の授業科目との関連性などです。
大学のカリキュラムデザインとシラバス
文部科学省が指示している学位プログラム中心の授業科目の編成が必要になるため、ほとんどの大学では、学部長や学科主任などが担当教員のシラバスをチェックします。
学生目線で考るとシラバスは履修を決める資料になります。
わかりやすいシラバスなら、大学生はどの授業科目で何を・どこまで・どの程度・どのように学ぶかがはっきりします。
わかりやすいシラバスを学生に提示することで、学生は目的意識をもってどのように学習すれば良いかをイメージします。
シラバスと大学設置基準
「大学設置基準」 第25条の2(成績評価基準等の明示等)は授業の方法・内容・計画を明示せよと書いています。
大学は、学生に対して、授業の方法及び内容並びに一年間の授業の計画をあらかじめ明示するものとする。https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331M50000080028#Mp-At_25_2
これは、PDCAサイクルでいうPlan(計画)にあたります。シラバスはここに該当します。
内部質保証制度
「大学設置基準」 は大学の内部質保証制度を義務化しています。
内部質保証制度は、学位プログラム単位の自己点検・自己評価・自己改善サイクルが各大学において確実に実行されているかを評価するシステムです。2022年現在、内部質保証サイクル に対して第三者評価が導入されています。
ですから、PDCAサイクルでいうプラン(計画)だけでなく、次の3点も重視されています。
- 実際に授業を実施(ドゥ)しているか
- 授業に対する自己評価や学生評価(チェック)にもとづいているか
- 年々更新あるいは改善(アクト)しているか
これらは「大学設置基準」第25条の3(教育内容等の改善のための組織的な研修等)に相当します。
PDCAサイクルにもとづいてシラバスを書くことが、いまの大学教員に求められています。
シラバスの項目例
- 時間割所属(自動入力が多い)
- 時間割コード(自動入力が多い)
- 授業科目名(自動入力が多い)
- 開講学期(自動入力が多い)
- 開放状況(自動入力が多い)
- 対象年次(自動入力が多い)
- 必修選択(自動入力が多い)
- 授業時間数(自動入力が多い)
- 単位数(自動入力が多い)
- ナンバリング(自動入力が多い)
- 更新日(自動付与が多い)
- 授業の到達目標(必須が多い)
- 授業の概要(必須が多い)
- ディプロマポリシー(DP)との関連(自動入力が多い)
- 授業の方法(必須が多い)
- 準備学修(予習・復習)+時間(必須が多い)
- 授業計画(必須が多い)
- 成績評価方法(必須が多い)
- 成績評価基準(必須が多い)
- 課題のフィードバック方法(必須が多い)
- 教科書(テキスト)(必須が多い)
- 参考文献(必須が多い)
- 履修上の注意等(任意が多い)
- 担当教員一覧(自動入力が多い)
- オフィスアワー・連絡先(必須が多い)
シラバスの書き方
シラバスで授業を特徴づける主項目は3つあります。到達目標・概要・方法です。
このうち到達目標では、学生を主語にして文章を書く必要があります。また、「履修上の注意」も学生を主語にしましょう。
概要や方法をはじめ、他の項目では授業や担当者を主語にするケースがほとんどです。
作成上のポイント:整合性をもたせる
とくに、授業到達目標・成績評価方法・成績評価基準の3項目に整合性をもたせます。
個々の授業科目は学士教育課程プログラムを構成します。
このため、学位授与の方針や教育課程の編成・実施の方針との整合性を考慮する必要があります。
授業到達目標では、授業科目を履修することで得られる知識や技能などを示し、学生が検証できる表現で示します。
つまり、授業を履修すると「こういうことできるんだ」「こういうことを目指して勉強するんだ」ということがわかるように書きます。
学生の学修成果を測定してその到達度を学生に示すことが成績評価です。
成績評価には複数の観点から学修成果を評価することを書きます。また、学修成果の測定の方法、基準の配分、それぞれの基準の時期や内容も併記します。なお、割合の合計は100%になるように注意。これらが成績評価方法です。
成績評価基準も授業到達目標にあわせ、学生が自分の学修目標を具体的にイメージできるように書きます。
必須入力・任意入力の項目の書き方
上述の25項目のうち自動入力や自動付与の項目は省略し、必須入力と任意入力の項目の書き方をまとめます。
授業の到達目標
主語を学生にして、学修者側の行動を具体的に示します。教員を主語にしないこと。
「…できるようになる」「…を説明できる」「…を操作できる」「…を使用できる」「…を測定できる」「…の討議ができる」「…が協調できる」などで文末を締めます。
目標の内容ですが、授業をとおして学生ができるようになってほしい目標を書きます。簡潔な文章で3点から5点ほど、箇条書きにするのがオススメです。
各項目における目標は、学生が到達可能な現実的な目標を設定します。各項目には、知識・理解(認知的領域)、技能(技術・スキル・運動能力などの技能表現的領域)、態度(意欲などの情意的領域)の3つの観点を含ませます。
これらの目標をもとにルーブリック評価や試験を作成します。
授業の概要
授業の要旨をわかりやすく書きます。
授業の全体像を学生が把握しやすいように具体的に書きます。抽象的・専門的な用語は極力、避けましょう。
文章は次のスタンスで書きます。
どのような知識や技能などを学ぶかを明記する。「…について学ぶ」「…について説明する」「…を身につける」など。
授業の方法
授業形態には講義・演習・実習・実技などがあります。当の授業がどれにあたるかを簡単に明記します。PC教室やCALL教室を使う授業ではそれも明記します。
そして、授業を進める方法を書きます。
たとえば、プレゼンテーションの方法、アクティブラーニングの有無など。また、テキスト、プリント、板書、パワーポイント、レスポンスカードの関係などを考えてみてください。それらをわかりやすく文章にします。
各大学ではポータルサイトを開設しているので、そこに導入されているウェブラーニング(eラーニング)のシステムにも言及します。たとえば、WebClassで資料を事前に配布するとか、manabaで小テストを毎回行なうとかです。
準備学修(予習・復習)・時間
学修時間について、大学設置基準(第21条の2)は次のように規定しています。
一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成するhttps://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331M50000080028#Mp-At_21
読みにくくて分かりにくい日本語が続いていますが、要するに、担当教員は45時間が必要な学修内容で1単位の授業科目を構成します。
いまの大学の授業は半期2単位が多いので、これを念頭に計算してみましょう。
2単位の科目では90時間の学習内容(学修)が必要です。
授業時間は90分で授業回数は15回なので、半期トータルの授業時間は1350分。
必要な学修内容(学習時間)は授業込みで90時間(5400分)です。ここで、授業抜きの学習時間は、5400-1350=4050(分)となります。これを60で割ると67.5(時間)です。
つまり、半期2単位の15回授業ですと、授業を含めずに67.5時間の学習が必要になります。1回の授業あたりですと、4.5時間の授業外学習をさせろという要求です。
逆に、この時間分(4.5時間)だけ、予習(事前学習)や復習(事後学習)が必要となるように、カリキュラムやシラバスをデザインしなさいということです。
亀のように遅く兎のようにミスの多い省庁が求めるにしては、なかなか高いハードルです。これほど大学生に勉強させて日本はどこに向かっているのかと疑問が出てきますが、仕方ありません。
担当教員として授業時間外の学修に何を望んでいるかも具体的に書いておくと、学生はイメージしやすく履修の参考や励みになります。
予習や復習の具体的な内容も書いておくほうが良いです。「授業の方法」に書いたようなことを参考に、学生目線でわかりやすく予習・復習の内容や方法をまとめます。
授業計画(第1回~第15回)
半期15回(集中講義も同様)の「学修内容」を1回ごと具体的に書きます。
複数回に同項目がある場合には、(1)・(2)ではなく、各回の副題やキーワードを必ず併記し、毎回の授業内容に違いをもたせます。
15回目の授業をどう位置づけるかがややこしいので少し説明します。
15回目の授業で試験することは授業期間内試験といいます。これは試験なのか授業なのか、どちらでしょう。
そもそも、試験と書くだけでは1回の授業として認められません。
そこで、15回目も授業(まとめや総括など)をすることが前提になります。
たとえば次のように書きます。
成績評価方法
成績評価は履修生が授業の到達目標をどこまで達成したかを客観的に評価するものです。
評価の配分割合を複数項目に分けて、合計が100になるように書きます。複数の項目は、平常点、授業内試験、定期試験、レポート、その他です。各項目の後に(○○%)と書くと分かりやすくなります。
なお、現在のところ、文部科学省は出席にたいする評価を認めていませんので、出席だけで平常点を算出するような記述は避けます。
平常点の具体例としては、授業時に書いてもらう質問票やレスポンスカード、あるいはディスカッションへの貢献度などが妥当でしょう。
また、「総合的に判断する」や「加味する」などの表現はダメ。比率がわからないからです。
成績評価基準
成績評価基準は、授業の到達目標に書いた目標について、どういう基準で評価するのかを示します。
- おもにレポートで評価する場合…学生にどのようなレポートを求めているかを明記します。そのうえで、レポートを採点するときの評価基準を具体的に書きます。
- おもにテストで評価する場合…テストで到達度を測定する評価基準を具体的に書きます。
課題のフィードバック方法
授業期間をとおして出す課題の種類(試験・レポートなど)を書きます。また、課題に対するフィードバックの方法も併記します。
教科書(テキスト)
授業でよく使う紙媒体やネット教材などを教科書(テキスト)として明記します。
紙媒体の場合、編著者名、書名、出版社名、ISBNなども書きます。教員にとって文献情報を詳しく書くことは慣れた作業です。大学によってはシラバス上から購入できるシステムもあって、学生にとっても便利です。
教科書(テキスト)を使わないときは備考欄や自由記載欄などに「使用しない」「なし、適宜プリント配布」な
どと書きます。
参考文献
参考文献には次のような文献を選びます。
- 授業科目や関連領域へ興味関心を高められる文献
- 学生が自分で学ぶのにふさわしい文献
- 当該授業科目の学びをさらに深める文献
参考文献がない場合は、備考欄や自由記載欄に「なし」などと書きます。
履修上の注意
授業科目を履修するにさいし、学生に伝えておきたいルール、要望、メッセージなどを書きます。
次のようなことを明記しておくと、学生も教員も誤解をせずに授業を進めやすくなります。
また、レポート提出や小テスト実施などでルールがある場合、そのルールを明記します。
オフィスアワーと連絡先
学生の質問や相談を受けるために連絡先を書きます。
オフィスアワーでは、専任教員ですと、授業終了時以外の時間にも対応するように書きます。
また、非常勤講師ですと、授業前後の時間以外の連絡方法を書きます。たとえば「授業終了時と電子メール」など。
これらの方法以外で連絡や質問・相談などを受けるときは、連絡手段を書きます。
「もう一度チャンスを」系のメールがプライベート用のメールサーバーに溜まっていくのは何かとストレスです。内容の質問や勉強方法の相談などなら、いつでも大歓迎ですが。
まとめ
大学教育におけるシラバスは話題シラバスが中心です。
シラバスはPDCAサイクルでいうプラン(計画)にあたりますが、 ドゥ(実行)・ チェック(評価)・アクト(改善)の3点も視野に入れた計画書となる必要があります。
シラバスの主な項目は3つあります。到達目標と概要と方法です。このうち到達目標では、学生を主語にして書く必要があります。
シラバスの書き方でとくに意識したい点が、授業到達目標・成績評価方法・成績評価基準の3項目に整合性をもたせることです。
個々の授業科目は学士教育課程プログラムを構成するため、学位授与の方針や教育課程の編成・実施の方針との整合性を考慮する必要があります。
この記事では教える技術としてe-Govポータルを使いました。
コメント