21世紀になって、モバイル資本主義がどのようなものか、はっきり分かってきました。
民間企業ではGoogleなどの検索エンジン発の企業の動向から、国家政策では中国のように国を挙げてのデジタル革命から、モバイル資本主義が見えてきました。
モバイル資本主義の議論の課題は、世界史や経済史の事実を並べ替えて、その順序やテーマで捉えなおすことです。
そして、この議論の目的は私たちの生活を豊かにする発想を探ることです。経済史ドットコムではモバイル資本主義にもとづいたテーマ別の話題を提供しています。
モバイル資本主義とは
モバイル資本主義とは、必ずしもモノやサービスを販売するわけ(だけ)ではありません。Googleのように無料サービスをひたすら提供しつづけて巨大企業となったケースもあります。
Googleはパソコンやスマートフォンに潜在して拡散していくので、これは企業として現われたモバイル資本主義です。
モバイルの名前どおり、モバイル資本主義とは移動しやすかったり持ち運びが便利だったりするモノが基点となりますが、Googleのように、移動を可能にするサービス主体やシステム自体も含みます。
世界史や経済史で重要になるモバイル資本主義の事例をあげます。
- モノ…本・新聞雑誌、ラジオ・テレビ、ミシン、携帯電話・スマートフォン
- モノ+システム…印刷技術(活版印刷)、電力、交通手段(自動車・列車・船舶・飛行機)、金本位制度(金属・鉄・非鉄金属)、貨幣制度(硬貨・紙幣)、支配制度(植民地・米国同盟)、言語(言語教育・言語学習)
- モノ+システム+企業…Google、Apple
つまり、マネーやスマートフォンなどのモノだけでなく、ソフト・アプリのようにモノに内在するサービスをも持ち運びのできるシステムなのです。
たとえば、本(書籍)は出版という作業をとおして読者へ届けられます。本は大量生産型アイテムの一例であると同時に、マンツーマン型アイテムとしてもモバイルに普及してきました。
印刷技術において活版印刷機(グーテンベルク印刷機)が登場するまで写本の時代が長かったことをふりかえると、この印刷機の実用化と読書作業の開発によって人類は、それまでの学習方法をリープフロッグしたのです。
Googleの特徴
Googleのような広い意味でのモノを提供できるサービス企業は、20世紀型のモバイルな新聞雑誌とは根本的に異なります。新聞や雑誌は冊子単位で販売価格が設定されていて、おまけに各記事にも単価が設定されている場合もありました。
Googleはそのような価格ではなく広告だけで収入を得てきたのです。
モノを販売せずにサービスも販売せずに、ひたすら無料で提供しつづけ、ほぼ全ての収入は広告に依存してきました。新聞雑誌は1頁あたりの広告スペースには規定がありますから、Googleと新聞雑誌はビジネスモデルがまったく違います。
GAFAというグルーピングは正しいか
民間部門では世界的IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook(Meta)、Appleの4社をまとめてGAFAといい、これは巨大IT企業の代名詞やプラットフォーマーの代表企業として考えられています。
しかし、IT関係の巨大企業だからといってGAFAを一括することは、4社の特徴を見逃すことになります。ビジネスモデルが異なるのです。
先ほど新聞雑誌と異なり、Googleがモノやサービスまで無料で提供してきたことを述べました。このビジネスモデルにもとづくと、GAFAは2つのタイプに分かれます。
- Google、Facebook(Meta)
- Amazon、Apple
GoogleとFacebook(現META)はモバイル資本主義の典型例です。パソコンやスマートフォンに住みついてひたすらサービス提供をしてきました。
2のタイプは、手に取れるモノから企業のビジネスをはじめました。この点で20世紀的な企業でした。
Amazonは創業当初、世界中の本を探して、消費者へ届けるサービスからビジネスをはじめました。のちに電子書籍(Kindle)やクラウドサービスを導入してモバイル資本主義となりました。
Appleは当初から音楽などのデジタル製品を扱っていたのでモバイル資本主義からはじまったといえます。しかし、単品のデジタル音楽を販売するという点では20世紀的ビジネスのままです。
1の企業は最初からモバイルでしたから、2の扱うモノを採り入れるかどうかは選択の余地があります。
これにたいして、2の企業が1に参入する場合、過去のモノと決別したり過小に扱ったりするリスクを負っています。AmazonやAppleが最終的に本やデジタル製品などの単品課金を止めるとは考えにくいのです。
このように、GAFAをビジネスモデルで分けると、無料サービス提供でひたすらユーザーに粘着するGoogleやFacebook(Meta)と、単品生産に依存してユーザーとつど決別するAmazonやAppleのタイプに分かれます。
グローバル経済史再考
経済史ドットコムが、Google、中国貨幣史、キリスト教史・言語史などのバラバラなテーマに共通性を見る理由は、いずれもがシステムの歴史であり、またモバイル資本主義の展開に関わっている点にあります。
モバイル資本主義からグローバル経済史をふりかえると、将来的な経済像や私たち自身の広義の生涯学習に活かせるはずです。
モバイル資本主義にもとづいてグローバル経済史を考えるとき、これまでの世界史や経済史の知識が無駄になることはありません。
- 世界史をリードしてきた王朝・国・地域が関わります。
- 経済史で重要だったモノやサービスが関わります。
- モバイル性によってリープフロッグしたモノやサービスやシステムは、開発者や開発国に莫大な収入がもたらされるため、その後の展開はしばしば、どんぶり勘定になることがあります。
モバイル資本主義論の課題は、世界史や経済史の事実を並べ替えて、その順序やテーマで捉えなおすことです。
そして、この議論の目的は私たちの生活を豊かにしていくことです。
世代によってモバイルというと眉間にしわを寄せる人たちがいますが、そういう人たちだって新聞雑誌という単品モバイルにお金を払ってきた人たちです。モバイルをプラスで考えれば、オンライン学習やオンライン留学にも、相応の効果があると分かるはずです。
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