アパレル産業から経済活動の循環を理解する

広視野経済学
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前回の「アパレル産業を事例に経済学をどう考えるか」からステップアップして、今回はアパレル産業から経済学を説明します。

経済学を説明するというと難しそうですが、この記事では経済活動が循環している点を理解してください。

そして、経済活動の循環をとらえる2つの経済学をご紹介します。

経済活動の循環をイメージできるようになると、広視野経済学を考えやすくなります。

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服飾ファッションやアパレル産業の面白さ

服飾ファッションの歴史やアパレル(衣服)の歴史を勉強する重要性は古代から身分制や差別の問題と密接に関わってきたこと。

他方で着る側の点からは身分制や差別を不問にしようとする動きも確認できること。モノとコトの歴史を一緒に勉強できるので楽しいです。租庸調の税制や律令制も理解しやすいです。

歴史を勉強するのに役立つテーマは服飾ファッションやアパレル産業。

食べ物も面白いところですが変化が緩慢すぎます。

政治は変化が激しい割に中身は同じなのでつまらないです。経済の歴史は19世紀から一気にピッチアップするのでペースが掴みにくい。

日本史だけみても手頃に変化するのが服飾ファッションやアパレル産業です。

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アパレル産業から経済活動の循環を理解する

経済活動が循環している点を知ることは経済学を理解することと似た意味をもちます。

ですから、経済活動の循環を今回の記事で理解して経済学の本質を理解したと自信をもってください。

用語の選定

アパレル産業から経済学を説明するにはアパレル産業に関する用語を選ぶ必要があります。

また、これまでみなさんが経済学の用語として使ってきたものも含めましょう。

  • アパレル産業の用語…デザイン(設計)・流通・販売・着用
  • 経済学の用語…製造・販売・商品・流通

用語の浸透

授業でアパレル産業の用語と経済学の用語を積極的に使うよう指示はしませんでした。でも、学生の皆さんは両方の言葉をよく提示していました。

つまり、普段の生活をすごしているなかで、経済学の用語はひろく浸透していることがわかります。この点も学生が自信をもつべき点です。

用語の配置

ついで全体的な動向全体的なレポートの感想を述べます。

服ができてから消費者に渡るまでの工程を中心に今回は書いてもらいました。

概ね生産・流通・消費という経済学の言葉に対応させて服のデザインやデザイン設計や服を着るという商品を当てはめて関連付けて書かれてありますこの辺は OK です。

この現在を反映してか流通の点でトラック配送や宅配を大きく強く書いてあるのが一つの特徴ですまた頃の間にあって買い物に行く以上にも宅配が目立ったなというのが感想です。

経済の主役

生産者と消費者の関係

みなさんだけでなく私自身も忘れていましたが、経済学のもう一つの大事な点を今回は強調します。

服を着ることは服を消費することです。そして、服を着る私たちを消費者といいます。

それでは流通やデザイン縫製を担う人たちは何というでしょうか。これらの人たちは経済学で生産者といいます。

経済学の二分法に生産と消費があります。生産と消費をわけて考える方法です。これを私は分裂型経済学と名づけます。

生産者は販売までに関わるすべての人たちです。これに対して購入した人たちは消費者となります。レポートに生産者と消費者が対立している点を文章に入れたいところです。

生産者と消費者という対立にもとづいて、物の流れがすべて完結しているのですから、この流れ全体を経済社会といます。もちろん、関与する人たちも含めます。

肝心なことがあります。

服を着る人は消費者ですが、服を着たまま仕事をしたり遊んだり寝たりします。このうち仕事をしている間は服を着た消費者であると同時に生産者でもあるわけです。古い言い方では労働者といってもOK。

私たちは服を着て何をするのでしょう。

買い物をしたり、カフェに行ったり、家でくつろいだり、勉強したりだけでなく、仕事・労働をしていることも忘れないでください。

経済学は生産者と消費者という対立(二分法)に依拠しますが、裏には生産者と消費者が個人で成立している点も覚えておいてください。これを私は統合型経済学と名づけます。

つまり、この経済社会のなかで私たちは生産者になったり消費者になったりするわけです。

私たちは服を着て仕事にも行きます。

仕事をしているとき、また雇用関係にある期間、私たちは生産者でもあります。そして消費者でもあります。

つまり、服を着ることは消費者の行動だけではなく生産者の行動とも考えるわけです。つまり生産者は消費者、消費者は生産者にもなるということです。

このことをふまえて、生産者に焦点をあててみましょう。

生産者は物やサービスを作っているだけでしょうか。

物を作るには原材料を使わなければなりません。生産者は原材料を消費して別のものへ加工しています。

DIYやハンドメイドで考えると

DIY やハンドメイドを想定しましょう。

私たちは物を作るとき、何を作るか、どう作るかを考えます。

他方、どんな原材料を使うか、どのように原材料を使うか、どれだけ原材料を使うか、どこで原材料を買うかというように、原材料を使うことも考えています。

私たちは物を作るとき、原材料を消費して別のものに加工するわけです。これが生産です。

生産とはすなわち消費、消費とはすなわち生産になるわけです。

生産と消費は裏腹の関係にあります。

いつも誰かが何かを消費して生産をしています。生産された物やサービスは別の人にわたります。そして、人から人へ、消費と生産が繰り返されていきます。

繊維産業やアパレル産業でいうと、繊維から糸へ、糸から布へ、布から服へ、という流れになっているわけです。

しつこくまとめてみます。

  • 繊維から糸へ:繊維を消費して糸を生産する
  • 糸から布へ:糸を消費して布を生産する
  • 布から服へ:布を消費して服を生産する

二つの経済学

これまでみてきたように、経済学は生産と消費の関係に2つの見方がありました。

  1. 分裂型経済学:生産と消費をわける
  2. 統合型経済学:生産と消費をまぜる

古い言い方では、1の経済学をマクロ経済学ミクロ経済学といいます。さらに古い言い方では近代経済学といいました。2の経済学をマルクス経済学といいました。

これらの流派は歩み寄ったことがなくて、分断されたまま21世紀をむかえました。いまはマルクス経済学が衰退して、マクロ経済学とミクロ経済学が経済学の代表になっています。

私の見解はこうです。

いま、人間も社会も分断されています。ですから、マクロ経済学やミクロ経済学の考え方で人間も社会も動いています。みなさんが経済学を知らなくても、だいたいは消費と生産を区別して、さらに役割を細分して活動しています。

18世紀なかごろにイギリスで産業革命が発生して以降、近代社会に生きる人間はポイントだけで生きることに慣れてきました。

他方、人間はポイントだけで生きていくことをとても虚しく感じるときもあります。

たとえば、20世紀に多くの人生を仕事に使ってしまった人は自己紹介のときに、よく次のようにいいます。

「会社で長らく営業をしてきました。」

こんな自己紹介をされたときに私は「家で皿を洗ったり料理を作ったりしなかったのか」と思います。でも、その人にとっては会社勤務が人生だったのでしょう。

21世紀を生きるみなさんには、こういう自己紹介を平気で言える人間になってほしくないです。

もう一つ事例を。

新聞記者や新聞社編集局というサラリーマンや同集団が書いた本は、必ず分裂・分断されています。

繊研新聞社編集局編『よくわかるアパレル業界』はアパレル業界を解説したハンドブックです。これによると「アパレル産業に働く人々」として次のような職種を挙げています。

  • 社長
  • デザイナー
  • スタイリスト
  • パタンナー
  • マーチャンダウザー
  • アパレル営業部
  • ファッションアドバイザー
  • ショーを支える裏方
  • 百貨店バイヤー

これらは、服を企画する職種と服を販売する職種に大別できます。

何が足らないのでしょうか。考えてみてください。

繊研新聞社編集局編『よくわかるアパレル業界』日本実業出版社、2003年

この記事では生産と消費の関係から経済学を大局的に考えました。

節約と出費といった個人の活動から経済学を小さく考えることもできます。

アパレル産業の不幸

アパレル産業は経済学や経済史でスルーされることが多いです。

服部之総たち当事者がマルクスの「過渡的形態の錯綜」というキーワードでブルジョア革命を論じたとき、念頭においたのは織物業でした。

しかし、マルクスが「錯綜」を呈すると言ったのはアパレル産業でした。これを支えたのが20世紀転換期に地球規模で普及したミシンです。

中国と日本では19世紀中期に開港地から洋服仕立業(テーラー)が開始します。

  • 中国開港地…広州、福州、廈門、寧波、上海の5港(1842年、南京条約=江寧条約)
  • 日本開港地…は、神奈川、長崎、函館、新潟、神戸の5港(1858年、日米修好通商条約)

いずれの開港地でも洋服仕立業が勃興して、兼業もふくめて既製服産業まで展開しました。

日本資本主義論争は、論争が無駄であり、当事者以外にはなんの役にも立たない好例です。この点については「日本資本主義論争にみる繊維産業の盲点」をご覧ください。

アパレル産業を事例に経済学を考えるメリット

アパレル産業分析する大切さは次の点にまとめられます。

  • 先進国から途上国までの国際分業で重要なポジションを占める
  • 途上国が新晃工業国へテイクオフするときに新産業となりやすい

近代日本のように、かつては紡績業や織物業が新産業となりやすかったのですが、20世紀のあいだに投下すべき資金や必要な設備が高騰してしまい、新しく参入する産業にふさわしくなくなりました。

アパレル産業を事例に経済学を考えるメリットは国際分業を示すことにあります。

国際分業はヨーロッパの大航海時代やイギリスの産業革命が起こった状況と似ています。いずも一つの国では経済発展が成り立たなかったことを示しています。

この考え方、つまり国際分業や世界貿易という視野の広さは、20世紀の間にほとんど研究されてしまいました。

そして、20世紀末から一つの国のなかでの経済発展を産業革命や工業化と結びつけて考える傾向が強まりました。これは経済学や経済史の不幸でした。

世界貿易や国際分業などの広い視野から経済学を考えるには、アパレル産業を事例に調べていくことが勉強になります。

アパレル産業を事例に国際分業を考える記事は「アパレル産業の国際分業から経済学を考える」をご覧ください。

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