GDPの推移にみるグローバル経済史の流れ
この記事ではGDPの推移からグローバル経済史の流れを学びます。
具体的には、アンガス・マディソンのGDP推計とGDPの推移をみて、工業先進国と新興工業国の交替を確認します。
登場するテーマや国・地域に関心をもって、世界史や経済史を調べる癖をつけてください。この癖をつけると広視野経済学を考えやすくなります。
アンガス・マディソンのGDP推計とGDPの推移
ここに示すグラフは西暦0年から1998年までの「世界の実質GDPの歴史的推移」です。
グラフの単位は「1990年時点での国際100万ドル」($)ですから、20世紀にもなると膨大な金額になっています。Y軸の値は最大値で「10000000×1000000」ドル、つまり「10000000000000」ドル(10兆ドル)になります。
グラフの見方
X軸(横軸)が均等ではない点
X軸(横軸)が均等ではない点に注意してください。
X軸を均等にとっても、昔になればなるほどデータは不正確になるので、毎年を単位にする意味がありません。
つまり、昔になればなるほどザックリしたY軸データになります。これに対応して、X軸は毎年になっていません。毎年を単位にしても、もともと正確な数値は出ません。
とはいえ、Y軸のGDP数値はすべてでたらめかというと、そうではありません。
アンガス・マディソンは各国・各地域の租税データを整理しているので、同年で各国・地域どうしを比較した順位は正確ですし、GDP値もそこそこ妥当だと考えられます。
X軸(横軸)が均等ではない点:Y軸(縦軸)の数値の示し方
Y軸(縦軸)の数値の示し方に注意してください。こちらも均等ではありません。
普通のグラフですと、たとえば1ごとや10ごとのように均等に軸をとりますが、このグラフではY軸の単位(目盛り)を10倍ずつにとっています。
こういう工夫をしないと19世紀と20世紀のアメリカのGDPの伸びの角度が強烈すぎてグラフに描ききれないからです。
こういう10倍ずつに単位をとる(目盛りをとる9グラフを対数グラフといいます。いくつか猛烈な数値が出たときに使えます。
今回のグラフはY軸だけに対数目盛りをつけているので、とくに「片対数グラフ」ともいいます。
GDPの推移
グラフのGDPの推移から、世界経済の傾向と転換点がわかります。
世界経済の中心はインド・中国からイギリスへ、そしてアメリカへ代わりました。第2次大戦後はドイツと日本も伸びています。
イギリス産業革命の時期を確認する:世界経済の傾向
経済史の研究者たちはイギリス産業革命の時期を18世紀中頃から19世紀中頃までと考えています。
私も同感です。
グラフでイギリス産業革命の時期を確認するためにGB(England)をたどりましょう。
GB(England)の数値の傾きがやや大きくなった時期は1700年から1913年までです。この間にイギリス産業革命の時期が含まれます。
もう少し絞ります。
アメリカの動向を見る:世界経済の転換点
1700年代のアメリカ(USA)はイギリスの植民地だったので、イギリス産業革命の影響を受けています。
アメリカのGDPが急激に伸びたのは1700年から1870年の間です。
1700年代のアメリカは農業に偏った経済でした。農業生産品の多くがイギリスへ輸出され、イギリスで工業製品へ加工されました。
つまり、1700年代アメリカのGDPの伸びは工業生産力よりも農業生産力が大きかったはずです。その後、だんだんアメリカの工業生産力が伸びていきます。
世界経済の中心の推移と特徴
グラフの序列と程度
- 1700年:インドと中国のGDPが近づき、日本とイギリスとドイツのGDPが近づいた。
- 1820年:中国が躍進しインドが停滞、日本が停滞しイギリスとドイツが抜いた。アメリカのGDP成長率が異常に大きい。
- 1870年:日本をのぞく5カ国のGDPが近づいた。アメリカのGDP成長率が異常に大きい。
- 1913年:アメリカのGDP成長率が異常に大きい。他の5カ国の成長が鈍化。
- 1998年:イギリス、ドイツ、日本が鈍化のまま、インドと中国が急成長。中国のGDPがアメリカを射程に入れたか…!?(21世紀前半に優劣が決まりそう)
主要国の比較
インド・中国(アジア的的世界)から欧米的世界へ
マディソン・グラフに人口と国土・資源と生産性を重ねて、考えてみましょう。
- 17世紀までインド・中国的世界(アジア的世界)人口が多く、国土・資源が多く、生産性が低い
- 18・19世紀イギリス的世界(20世紀後半のドイツ・日本・韓国も)人口が少なく、国土・資源が少なく、生産性が高い
- 19・20世紀アメリカ的世界人口が多く、国土・資源が多く、生産性が高い
20世紀初頭の工業先進国と新興工業国
6カ国のうち中国とインドはGDPが高いままでした。人口と国土・資源の豊富だったからです。
20世紀初頭(1900年代ころ)の工業先進国はイギリスだけです。
GDPを大きく成長させたアメリカとドイツが新興工業国でした。この後、両国はイギリスを追い上げていきます。日本は工業政策を促進していましたが、まだまだ途上国でした。
21世紀初頭の工業先進国と新興工業国:中国・インド中心に
21世紀初頭の工業先進国と新興工業国はかなり複雑です。
工業先進国には、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、韓国などがあります。
新興工業国には、中国、インド、東南アジア諸国などがあります。
いま世界経済が抱えている問題は次のように分けられます。
- 工業先進国が増え、先進国どうしの競争がある
- 新興工業国が増え、新興国どうしの競争がある
- 史上初めて、工業先進国の工業生産力を超える新興工業国(中国)が出現した
これに関して国際秩序も変わってきました。
20世紀型の世界秩序は国連でした。国連の役割は「1」の国々が「2」の国々を経済的にサポートすることでした。
21世紀のいま、中国が「2」の国々をサポートしていて、国連の役割が低くなっています。また、いままで国連で強い立場にあったアメリカが消極的な態度をもつようになりました。
いまのGDPは、アメリカでは医療部門がほとんどなのにたいし、中国では環境部門が大きいです。21世紀の環境問題に責任をとれる国は中国だけだとアメリカのTV番組「ナショナル・ジオグラフィ」は伝えています。
21世紀の中国のように、キャッチアップ型経済発展論(キャッチアップ型工業化論)では解明できない経済発展について、リープフロッグ(蛙とび)の考えで説明できます。
21世紀のGDPランキング
この記事に紹介したアンガス・マディソンの推計は20世紀末まででした。
この推計を2018年まで延長した研究があります(八尾信光「長期経済統計から見た21世紀の世界経済」)。
21世紀初頭にはじまった新興国の追い上げ
当該地の物価を考慮した実質値ですからイメージしにくいですが、この研究で分かることがいくつかあります。
- 12の人口大国での実質平均所得では、新興諸国の平均で日本の後を50年ぐらい遅れて先進富裕国を追い上げている
- 17の経済大国での実質経済規模の拡大過程では、20世紀末から21世紀初頭の世界は新興諸国の実質経済規模が先進諸国を次々と追い抜いていく時代となる
1点目から、1970年頃の日本の実質所得に新興国が到達したことがわかります。
日本の高度成長期は2位のドイツをキャッチアップしていましたが、近年の新興国の追い上げは数カ国にまたがっています。21世紀の中頃には日本の所得が新興国以下になる可能性があります。
2点目から、21世紀初頭には、新興国の経済規模が先進国のそれを追い越します。
21世紀初頭にはじまった日本の衰退
では、実際のGDP(国内総生産)はどうだったでしょうか。
わかりやすい日本生命の解説を参考にします(第135回 日本は「世界第3位の経済大国」というけれど | 日本生命保険相互会社)。
日本の名目GDP(≒所得)は世界第3位です。2010年に中国に抜かれ、米国、中国、日本の順になっています。なお、実質GDPでは1997年頃に日本は中国に抜かれています。
名目GDPを国ごとの物価の差で調整すると(つまり当該地の物価を考慮すると)、事態は変わります。2009年に日本はインドに抜かれ第4位に転落。いまも中国、米国、インド、日本の順になります。
また、国の平均的な豊かさを表す一人当たりGDPを見ますと、2020年の日本の一人当たりGDPは、購買力平価換算で世界第30位でした。
日本の名目GDPの数値が大きい理由は人口が大きいことにあるといえます。つまり、国民一人当たりの豊かさはたいしたことないという結論になります。
もっとも、人口が5000万人以上の国だけで比較すると、購買力平価換算で日本の一人当たりGDPが世界第6位となることから、日本生命の記事では日本を「依然として世界で有数の豊かな国である」と見ています。
しかし、人口を区切ってライバルを減らした上での順位変動ですから、涙ぐましい結論となっています。
折衷的にまとめますと、日本が豊かな国であったとしても、新興国の多くが日本よりも豊かになりはじめました。
私の学生たちにアンケートをとったところ、中国が日本よりも進んだ経済大国だという認識がすでに当たり前になっています。中国が日本より進んでいることを学生たちがどうやって認識したかのメカニズムを今後は調べていきます。
今後のGDP予測
2050年にかけて今後のGDPランキングで中国が1位、米国が2位、インドが3位になることは間違いありません。その後を追う国がどこかについては、細かい見解に分かれます。
一覧表になったGDPランキングで見やすい記事が「2050年の世界、中国減速もGDPは1位に 日本は成長最下位で7位 米国はインドに次ぐ3位 |ビジネス+IT」です。
日本の下落
また、経団連は日本の財政状況を詳しく加味して「2050年の世界と日本」を予測しています。財政状況から4つのシナリオを想定し、どのシナリオに進もうとも日本が第4位以下に下がることを確実視しています。さらに、2030年以降はGDPのマイナス成長もありうると指摘しています。
躍進する新興国
すでに中国とインドが今後の世界経済の中核となっています。
今後の30年間(2050年まで)でGDPランキングを上げる新興国はどこでしょうか。およそ注目される国がインドネシアとブラジルです。
とくにブラジルは、この数年間でGDP上位12か国につぐ経済力をもってきました。たんに中南米といった地理的な用語ではなく、イベロアメリカ、イスパノアメリカ、ラテンアメリカなどの言語区分が注目されてくるでしょう。
参考
イギリス産業革命
- 産業革命(工業化)の影響ー産業革命(工業化)の影響と特徴ー
- 生産性の向上⇒無駄の発生(産業革命の意義)
- アメリカ的世界の特徴
2010年の人口と面積
人口(2010年)
中国 | 1349335152 |
インド | 1224514327 |
米国 | 310383948 |
日本 | 126535920 |
ドイツ | 82302465 |
イギリス | 62035570 |
面積(2010年/㎢)
内陸の水地(湖、池、川)を含めた陸地の総面積。
中国 | 9572900 |
米国 | 9525067 |
インド | 3287263 |
日本 | 377972 |
ドイツ | 357121 |
イギリス | 242495 |
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