データベースを使って歴史系の論文を書く

書く技術
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データベースを使って歴史系の論文を書くことについて、私には苦い思い出があります。

1990年代、当時のパソコン市場をにぎわせていたマッキントッシュと「4th Dimension」というデータベースソフトを私は購入しました。

それで経済史学や歴史学の専門書の全文データベースを構築しました。研究書を丸ごとパソコンへ取り込み、検索して叙述の偏りを調べる試みです。

しかし、当時のスキャナーの読み取り技術は低く「L」 と「1」を区別できません。また、 AI(人工知能)も発展していなかったので文章全体を構成的にスキャンできなかったのです。

それでも、データベースと歴史研究はセットで考えた方が良いと今でも思っています。

この記事では、データベースの発展と歴史研究の停滞というジレンマについて、あれこれ思ったことを書いています。

そして、21世紀に歴史研究をする意義について少し思いを巡らせていきます。

具体的には歴史研究などで論文を書くときにデータベースを積極的に使おうということです。

データベースを使って歴史系の論文を書くコツもお伝えします。

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データベースの普及と歴史研究

データベースの普及は一次資料へのアクセスが便利になり、研究者や大学教員以外でも研究ができる状況が広がってきた点が良いことです。

他方、研究の個別性を出すのが難しい状況になったように思います。

つまり、ライバルが参入しやすくなったのですが、資料調査のツメの甘さはどこか一般研究者に多いように思います。といってもベテランの教員研究者は歴史研究の醍醐味を失っている気もします。

だから、研究業績数は減らしても、一撃の破壊力あるように研究するしかないのかなぁ、今後は、と思います。どんだけやっても史料が猛烈に多いのでキリがありませんし。

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暇つぶしとしてのデータベース利用

他方で暇つぶしとしてのデータベース利用は、次のように感じます。

データベースは各国の国史の人たちがおもに頑張ってきました。もちろん、頑張ったから良いというわけじゃありません(後述)。

私の立場はデータベースを作成する側ではなく利用する側ですので、データベースをたっぷり使うのが今後の研究生活の指針になります。

私自身は自分勝手に研究をしててきただけですが、今後は関心のあるテーマでデータベースを見つければ、やっぱり関心の赴くままに論文書いていきたいと思います。

一撃の破壊力を今後生み出すのは自信がありません。

先行研究とデータベース

ふつう、専門書や研究書は先行研究に依拠しながら、だいたいの既存研究を駄目だというふうにまとめます。その後に持論をだすわけです。

私は、先行研究に依拠した研究が今後も必要だとは思いません。既存研究の駄目な点や限界を指摘して持論を出すなら、そこまでで論文は終わります。一次資料や固有データを出す必要もないからです。

データベースをたっぷりと使うというのが一つの方法になるかなと思います。

自国史の人たちがバカだと思うのは、データベース化された資料に価値はないというふうに考える点です。あくまでもオリジナルな一次資料、とくに手書きなどの資料を重視して論文を書くというスタイルを彼らは採っています。

データベース群に依拠しても、資料が良かったりまとめ方が良かったりすればそれは立派な論文です。

国史の人たちは自分の仕事のためにデータベースを作った反面で、自分たちの研究のためには他人や他社のつくったデータベースを活かさないというようなやり方をしてます。もったいない。

データベースを使って歴史系の論文を書くコツ

最近よくいわれるビッグデータもデータベースの一つです。

とにかくデータベースは情報量が多いので、これを逆手に取ります。

データベースを一つずつ丁寧に読み込む作業も大切ですが、これは活字論文や書籍も同じこと。

キーワード検索

データベースらしい使い方は、先行研究や類似研究から関連する語句を検索することです。

そして、検索結果数を調べて、とりあげられる語句の数量傾向を調査します。語句をいくつも分けていって、類型化します。

すると、かなりたくさんとりあげられる語句もあれば、意外に注目されていない語句も出てきます。あなたが注目しているのに、一般的には注目されていない語句があれば、これを積極的に使いましょう。

キーワード検索があなたの論文テーマの一側面を飾るわけです。

データベースの本文を横断検索することも、最近では可能です。これも積極的に使って、キーワードがどういう文脈で使われているかを調査するといいでしょう。

書くことについて

あとは、野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書、2020年)の紹介をして、この記事を終えます。

論文を書くことではありませんが、野口氏『書くことについて』は本を書くことをアイデア生産、アイデア整理、作文の3点を丁寧に説明しています。

  • クリエイティング・バイ・ドゥーイング…とにかくスタートしよう
  • アイディア農場…アイディアを育てよう
  • 多層構造で本を書く…アイディアの基礎単位を積み上げよう

詳しくは同書や下の記事を読んでいただくとして、野口氏が強調するのが作文技術。学校教育でもっとも手薄な技術です。

野口悠紀雄『書くことについて』角川新書、2020年
Amazon.co.jp

歴史研究に役立つ史料・資料検索データベース

歴史史料や経済統計など、データそのものを探し出せるデータベースを紹介します。

紹介するのは、論文検索ではなくロー・データ(生のデータ)もしくはそれに近いものを検索するサービス、資料検索・史料検索です。

国立国会図書館デジタルコレクション

日本語で調査するには、まずは国立国会図書館デジタルコレクションをお勧めします。

このデータベースは次のようなものです。

国立国会図書館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できるサービスです(収集・保存したウェブサイト、CD/DVD等のパッケージソフトは除く)。http://dl.ndl.go.jp/ja/intro.html#idx1

戦前期に刊行された日本語著書はすべてデジタル化されています。

これらは数年前まで「近代デジタルライブラリー」として独立に公開されていました。戦前期の本を扱う古書店が不要になるというインパクトがありました。

このデジタルライブラリーもデジタルコレクションに含まれています。

他にもいろんなデータベースが行政・官公庁、地方自治体、大学などを拠点に公開されているので、積極的に使うことをお勧めします。

私の研究に関するデータベースで量的にも内容的にも面白く、多用させて頂いたのは次のようなものです。

アジア歴史資料センター

この資料センターは次のような特徴をもちます。

国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所から、デジタル化されたアジア歴史資料(近現代における日本とアジア近隣諸国等との関係に関わる日本の歴史的な文書)の提供を受け、データベースを構築してインターネットを通じて公開しています。https://www.jacar.go.jp/

なかでも防衛省防衛研究所の戦時期衣料品関係の資料を著書の一部に多用しました。

身装画像データベース<近代日本の身装文化> – 国立民族学博物館

画像データベースもたくさん存在します。

そのうち1つだけご紹介します。メモ欄に鋭い考察もあるので、近代日本の衣生活を知るのにお勧めです。

このデータベースの特徴は次のとおりです。

和装と洋装が拮抗したダイナミックな期間である明治維新(1868年)以降、第二次世界大戦終結(1945年)までを対象として、その文化変容の様子をデータベース化しています。

当時の新聞小説挿絵、写真、図書中の図版、ポスターなどで構成されており、とくに新聞小説挿絵は、写真には収められていないような身装(下着姿や寝間着姿)、および各階層の日常生活の情景が生き生きと活写され、その信憑性は高く、当時の様子を知る格好の画像情報です。http://htq.minpaku.ac.jp/databases/mcd/shinsou.html

画像、出典元、コメント・メモなど多様な情報を得られます。

全項目、タイトル、制作者、年代、コメント、身装画像コード、キーワードのいずれかに気がかりな言葉を入れたり選択したりして使います。

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