日本語の歴史をたどるシリーズです。今回は中世(鎌倉・室町時代)をとりあげます。
中世という時代区分は日本語史も日本史もだいたい同じです。
日本語の歴史:中世(鎌倉・室町時代)編
特徴
- 古典日本語が崩壊しました。
- 識字層がすこし拡大して資料の書き手が武士や庶民にまで広がりました。『平家物語』『方丈記』『徒然草』など。
文法
動詞
- ラ行変格が4段活用に変化し、活用形式は8種類になりました。
- 終止形が衰退して、機能が連体形にとって代わられました。
- 2段活用が1段化の傾向を示しはじめました。
形容詞
- ク活用とシク活用の区別が失なわれました。
- ナリ活用の連体形に「~な」という形が現われました。
助動詞
- 過去・回想の「~き」「~けり」、完了の 「つ」「~たり」「り」が「た」に統合されました。
- 断定の「~であ」「〜ぢや」、打消の「~ぬ」、打消過去の「〜なんだ」が現われました。
その他
- 係り結びが乱れ、次第に用いられなくなりました。のち室町時代には「こそ~」以外すべてが消滅。
- 接続詞が発達しました。中古までは接続助詞が主流でした。
- 格助詞で主格の「〜が」や連体格の「~の」の用法が現われました。
語彙
- 和文語と漢文訓読語の区別が曖昧になりました。
- とくに武士層に漢語が一般に普及しました。
- 和製漢語が開発されていきました。たとえば、返事、火事など。
- 敬語語彙が充実していきました。たとえば、「お~やある」、「~まする(丁寧語)」などです。
- さまざまな位相語が登場し、いまでも残っています。たとえば、女房詞、武士詞など。
- 室町末期、キリスト教宣教師たちによってポルトガル語からの外来語が入ってきました。たとえば、パン、シャボン、カステラなど。
文字・文体
- 和漢混淆文(訓読体と和文体の融合)、候文(書簡文体)、記録体(変体漢文)が形成されました。
- 口語的な文体も見られるようになりました。
- 武士層や一部の庶民層に文字が普及しました。
- 漢字の普及にともなって当て字や熟字訓が増えました。
- 漢字の誤読を避けるために捨て仮名(添え仮名)が使われはじめました。たとえば、水ツ、夜ルなど。
- キリシタン宣教師たちが日本語をローマ字で表記しました。
音韻
- 連声(れんじょう)が盛んになりました。たとえば「人間は」→「ニンゲンナ」、「今日は」→「コンニッタ」、「念仏を」→「ネンブット」
- 母音は「a」「i」「u」「ye「vo」の5つでした。キリシタン資料によると、子音は、たとえば、シ「xi」、セ「xe」、チ 「chi」、ツ「tcu」など。
- 拗音が確立しました。正月なら「セウグワチ」→「ショーグワチ」など。
- 長音が発生しました。料理なら「レウリ」→「リョーリ」など。
- オ段長音に2種類がありました。「アウ」→オー(開音)、「オウ」→オー(合音)です。
文献(研究史)
- 『下官集』(藤原定家/13世紀初頭)…和歌の書き方や写本をつくるときのルール集です。とくに「嫌文字」(うたがわしきもんじ)の章で、語例をあげて正しい仮名遣いを明記しました。「お/を、え/へ/ゑ、い/ひ/ゐ」について「をみなえし」「をとはやま」「おくやま」「おほき」などを列挙。『下官抄』とも。
- 『仮名文字遣』(行阿)…「お/ほ/を、う/ふ/む、は/わ」を追加して、語例を増やしました。
この2つをまとめて定家仮名遣いといいます。江戸時代まで歌人や文学者たちが使いました。
- 『手爾葉大概抄』(著者不詳/14世紀)…歌学書。和歌をつくるとき、助詞「て」「に」「は」の使い方が重要だと説きました。後を文法的に区分する先駆けになりました。
- 『節用集』(著者不詳/室町時代)…国語辞書(用字集、字引き)。漢字の熟語を並べて読みがなをつけただけのもので、意味の解説はありません。
まとめ
日本語の歴史をたどるシリーズ、今回は中世(鎌倉・室町時代)をとりあげました。
この時代の日本語では、古典日本語が崩壊し、接続詞が発達したことが大きな変化です。
また、語彙では、和文語と漢文訓読語が混ざりはじめ、他方、漢語、和製漢語、敬語語彙、位相語が豊富になっていきました。
中世末期(室町時代末期)、キリスト教の宣教師たちが外来語をもたらしました。たいていはポルトガル語由来のものでした。
日本語の歴史
日本語の歴史(日本語史)を総説と時代史でまとめています。
コメント