塚原哲也『読んで深める 日本史実力強化書』

4.5
学ぶ技術
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『読んで深める 日本史実力強化書』は、予備校で日本史を教える先生が一人で書いた日本史の参考書です。大学受験用で、論述対策もカバーしてくれます。

日本史の先生が通史を一人で本を書くことは受験業界ではたまにあります。

しかし、大学の日本史の先生は通史を一人で書くことはほとんどありません。いわば通史に対する責任逃れです。

長らく大学で近代史や経済史を研究してきた経験からいうと、一人でなんらかのテーマを書ききることは大変な作業です。この作業を果敢にチャレンジした著者に敬服します。

塚原哲也『読んで深める 日本史実力強化書』駿台文庫、2018年
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2022年度から導入される歴史総合には、当然ながら本書の世界史関連部分がやや非力になります。もちろん、日本史探求に本書は十分に耐えられます。

本書を歴史総合に活かすなら、後述する見出し(分野)のうち国際関係植民地占領地(できれば沖縄北海道も)に注目すると、どのような世界史の知識が求められるかを知ることができます。

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本書の構成とオススメの使い方

『日本史実力強化書』の特徴は同時代性テーマ性の2点でも読めることです。

同時代性は空間的な広がり、テーマ性は時間的な広がりと考えられます。この点に経済史ドットコムの広視野と同じ関心を確認できます。

2022年度から導入される新学習指導要領の歴史総合も、この辺りをめざしています。

もっとも日本史全体を対象にした参考書ですから、本文は時系列に展開していきます。時代は原始から現代まで18章、時期は46セクション(区切り)です。

時代別と同時代性

最終目標は章冒頭の大まかな時代の推移を説明できること

この表は丸覚えしましょう。日本史の基礎体力が身につきます。

同時代の状況を捉えるためにセクションをまとめて読むこと

セクションは46個あるので、これを単位に読めば、1ヵ月半で本書を読み切れます。

今日読む量をセクションと章にわけてメリハリをつけるのが良いと思います。

本文の使い方

本文には赤字やゴチックで用語を目立たせる工夫と、ピンク色で主題を設定して枠で囲う工夫があります。

日本史の入試では暗記と理解の両方が試されます。

赤シートを買って用語を伏せて覚えること(ただし私は未検証)

塚原哲也『読んで深める 日本史実力強化書』駿台文庫、2018年、297頁

もう一つ、とくにオススメしたいのが枠で囲った箇所です。

上の画像では「日露戦争前後における工業の発達」と題した囲み部分です。

題に「について述べよ」というフレーズをつけることで、とりあえず論述問題を自作できます。

囲み部分は丸ごと覚えて数文で書くこと

自分の日本史力をチェックするとき、自分にゆっくり説明してみましょう。手書きでも音読でもOK。行き詰ったとき、そこがあなたの弱点です。

行き詰まり発見の練習を繰り返すことで、著者のいう「つながりのなかで理解し」「文章のなかで文章とともに覚えたい」という力がいずれ身についていきます。

本文で分からない箇所が出てきたとき

本書に限ったことではありませんが、分からない用語があるといっても、

  • 銑鉄、製鉄、製鋼のように経済史に関わる用語
  • 五街道の木曽福島や小仏のような地名

など、いちいち経済学辞典や地名辞典を参考にすると大変です。

専門的な辞典・事典は用語の説明が膨大なので、日本史の教科書(強化書)から離れてしまいます。

そこでオススメしたい方法が、やさしい辞典を使うことです。

三省堂の『例解新国語辞典 第十版』は中学生むけですが、銑鉄、製鉄、製鋼はすべて載っています。さすがに木曽福島や小仏などの地名はありません。

とにかく教科書でつまづいたら、やさしい辞典で補うことが大切です。

教科書の説明で分からない部分はやさしい辞典で補うこと
林四郎監修、篠崎晃一編修代表、相澤正夫・大島資生編著『例解新国語辞典』第十版、三省堂、2021年。
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テーマ性:見出し(分野)を使いこなす

『日本史実力強化書』は時代や時期だけでなく、テーマにも目を配っています。

この配慮自体は目新しいものではありませんが、著者が意識的にはっきり区分している点で本書はオススメの一冊です。

見出し(分野)について

本文には、ところどころに政治や国際関係などの見出し(分野)がついています。

  • 政治
  • 国際関係
  • 社会経済
  • 文化
  • 北海道
  • 沖縄
  • 植民地(近代)
  • 占領地(近代)

これらの見出し(分野)は、それぞれ政治史、国際関係史、社会経済史、文化史などの学問分野の基礎となります。

また、北海道、沖縄、植民地、占領地は、とくに近代になってから日本帝国主義の拡大によって重要となるワードです。

これらの見出し(分野)は、政治経済や対外関係など日本史で重要となるポイントです。それぞれ一段落で書いてあるので読みやすいです。

この見出し(分野)だけを抽出して、下の記事では一覧化しています。論点追尾や授業準備にお役立てください。

見出し(分野)を使うコツ

そこで次の学習方法をお勧めします。

見出し(分野)を追ってテーマ別に日本史をふりかえること(見出し一覧
生涯学習

この学習方法は受験生よりも社会人シニアの方生涯学習に役立ちます。というのも分野を単位にしているので、時代を越えるからです。

さらに、社会人の方には公務員採用試験の基礎固めとしてスキルアップをめざす使い方もできます。

今後、文部科学省や大学入試センターが作問方針を変え、時代を越えたとらえ方を推進するようになれば、テーマ別日本史も受験生に大切になってきます。もちろん、そうなると大学の先生方は四苦八苦しそうですが。

受験勉強

受験生には次のような使い方が現実的です。

教科書と強化書を1周ほどして、自分の位置を思い出しやすい水準になると、見出し(分野)のジャンプ力が活きてくると思います。

この作業には、大まかな時代の推移を思い起こしていくことをオススメします。

「大まかな時代の推移」には、世紀単位で矢印が記された箇条書きの文章が並んでいます。時代の流れがつかみやすい工夫があり、親切な設計になっています。

このなかから見出し(分野)に含まれる項目をさがして、ときには見出し別に別の箇条書きに書き直す作業がとても有効です。

進学先の選定

もちろん、見出し(分野)は、大学進学にあたって学部を選ぶときにも役立ちます。たとえば次のような学部選定を考えられます。

  • 政治…政治史(法学部)
  • 国際関係…国際関係史(法学部)
  • 社会経済…経済史(経済学部)
  • 文化…文化史(文学部)
  • 北海道…地域史(文学部)など
  • 沖縄…地域史(文学部)など
  • 植民地(近代)…国際関係史(法学部)や植民地史(文学部)など
  • 占領地(近代)…国際関係史(法学部)や植民地史(文学部)など
複数の筋を味わう

著者の言葉でいえば「歴史という物語の筋は一つとは限らない」のです。見出し(分野)を追って複数の筋を味わってください。

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本書を音読と音声入力して論述対策をする

読んで深める日本史

著者は本書の音読を勧めています。黙読で見落とすことを防ぐためです。

この20年間でデジタル化が進み、読むことと書くことの境界が曖昧になりました。

とくに音読は録音したり入力したりの作業と同時にできるようになりました。歴史の勉強ではこの手を応用したいところです。

前世紀から書く作業には入力も加わっています。

そこで、論述対策にあたり音読から一歩進んで音声入力をお勧めします。音声入力であらかじめ論述問題の解答を自分で読み上げるわけです。

このメリットは音声入力した文章を自分でチェックできることです。入力にすぎないといえますが、音声入力はデジタル化された(入力された)自分の言葉を文章で読むことができます。

文章のチェックで手っ取り早いのはTwitterです。勉強アカウントで使うといいでしょう。

かすかな反応を期待するならオープンなアカウントにツイートし、純粋に自分の勉強用にするなら鍵アカウントで使います。

たとえば東京大学の日本史は大問4つで構成され、 大問1つにつき150字~210字の論述が求められます。するとツイートではリツイートの1つめ70字までとなります。

文字カウントが少しややこしいですが、論述の過去問へ集中的にとりかかるとき、音声入力が役に立ちます。

書いて深める日本史

Twitterと違い、もう少し机に向かって論述対策をするなら、手書きに平行してテキストファイルやwordファイルで書いていく(入力していく)のがお勧めです。

文字数カウントが楽になります。

読んで深める日本史書いて深める日本史を連動させる

ついでにと言えばなんですが、経済史ドットコムのTwitterのフォローやリツイートもお願いします。

まとめ

『読んで深める 日本史実力強化書』は時代別に書かれた日本史受験参考書です。

同時代性とテーマ性でヨコ(空間的広がり)とタテ(時間的広がり)も学べます。

本書を音読や音声入力して論述対策に使うこともできます。

塚原哲也『読んで深める 日本史実力強化書』駿台文庫、2018年
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