リープフロッグ:グローバル経済史の要約

4.5
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この記事は遅ればせながら、野口悠紀雄『リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』の書評です。

今年たぶん最初で最後のAmazonでの買い物。

私の歴史観の原点となった映画と、これ一冊でグローバル経済史が十分わかる本の2点。DVD化を毎年しらべてたつもりでしたが、2018年に発売されていたと一昨日に気づきました。

今年は日中国交正常化50周年。日中交流の架け橋になりたい。

今更ぶら下がれる組織も機会もないでしょうけど。

野口悠紀雄『リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』と佐藤純彌・段吉順『未完の大局』

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リープフロッグ:一冊でグローバル経済史をまとめた良書

リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』は、野口悠紀雄が書いたグローバル経済史・世界経済論の本です。

2020年12月に文春新書から出版されました。

私としては、蒸気機関の産業革命という高校や大学で学んだ「耳タコ」から、電化へ逃れられて、本書はスッキリしました。

『リープフロッグ』は著者の「note」ブログの記事を新書にしたものです。

かなり読みやすく、キャッチアップ型とは違う経済発展(ステージを変えるようなカエル飛びのイメージ)から世界史を振り返ります。

たとえば、

  • 古代中国の官僚制度ではできなかった(リスク分散の)保険制度を使って大航海時代が始まった
  • イギリスは電化の時代にドイツとアメリカに遅れた

硬い脳みそには新鮮でした。

15世紀から16世紀だったか、スペインとポルトガルの間で結ばれた2回の世界領土分割条約は知らなかったので、かなり面白かったです。トルデシリャス条約サラゴサ条約です。

大学受験の世界史を勉強するときにも、リープフロッグの概念を知っておくと歴史の流れをつかみやすいです。

コロナ禍の航空遮断にある世界史を航海と情報化から読むのも一興です。

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リープフロッグ(蛙とび)とは

リープフロッグ(蛙とび)とは「飛び越える」現象のことです。これに関して、経済発展が必ずしも順序どおりに進まない点に本書は注目しています。

そのうえで、ある国や地域の経済発展が途中でジャンプして、先進国を飛び越える現象を歴史からたどっています。いわゆるリープフロッグ型経済発展です。

キャッチアップとリープフロッグ

似ている現象にキャッチアップがありますが、次のような違いがあります。

  • キャッチアップ…追いついて、追い越す →抜く
  • リープフロッグ…追いつく前に、追い越す →飛ぶ

ふつう、徒競走で《相手を追い越す》イメージはキャッチアップですが、飛行機で《山を追い越す》ときはリープフロッグのイメージになります。

グローバル経済史をリードしてきた国や地域は技術や環境に適するように、また先進国を見習って発展してきました。この見方はいわゆるキャッチアップ型経済発展論といって、一面では正解。

しかし、21世紀の中国のように、キャッチアップ型経済発展論では解明できない経済発展した国・地域もあります。

キャッチアップ型経済発展論(キャッチアップ型工業化論)そのものではありませんが、次の記事は、GDPの推移からグローバル経済史の流れや転換点をまとめたものです。リープフロッグのまえに、そもそもキャッチアップについてよく分からない方はご覧ください。
GDPの推移にみるグローバル経済史の流れ
この記事ではGDPの推移から世界経済史の流れや転換点を学びます。具体的にはアンガス・マディソンのGDP推計とGDPの推移をみて工業先進国と新興工業国の交替を確認します。登場するテーマや国・地域に関心をもって世界史や経済史を調べる癖をつけてください。

経済発展のパターンにみるリープフロッグ型発展(現象)

経済発展のパターンには、先発性の利益後発性の利益があります。

このうち、後発性の利益には、

  • イノベーション経済学
  • キャッチアップ型工業化論
  • リープフロッグ型発展(現象)

があります。

リープフロッグ型経済発展の一例によく挙げられるのは、多くの新興国において固定電話の普及をまたずに携帯電話およびスマートフォンが急速に普及したことです。

また、中国におけるフィンテックの進展も挙げられます。

アメリカや日本などでは、新しいサービスが出ても既存サービスとの摩擦が起こり、法律の修正が必要になるため、浸透までに比較的長い時間が必要になります。

他方、中国は既存の社会インフラや法律の整備が十分に進んでいなかったことから、電子決済、タクシー配車サービス、シェア自転車などの新しいサービスが急速に浸透しました。

電力網とテレビ地上波の普及をリープフロッグして太陽電池と衛星放送が普及したモンゴルもリープフロッグ型発展の一例です。

リープフロッグのテーマ

本書は、突然・一挙に展開した経済発展をリープフロッグという概念でとらえ、世界経済の歴史をふりかえります。

とりあげるテーマはオーソドックスに次の流れになっています。「➤」はポイントです。

  • 古代…中国 ➤官僚制によるリスク回避
  • 中世…イタリア、ポルトガル、スペイン ➤イタリアのリスク分散、トルデシリャス条約とサラゴサ条約、スペインの銀浪費
  • 近代(産業革命ころ)…オランダ、イギリス、フランス ➤蒸気機関
  • 近代(産業革命以降)…アメリカ、ドイツ ➤電化と株式会社重視
  • 現代…中国 ➤実店舗経済の地域分断から全国ネットワーク経済の構築へ

本書は世界経済の歴史で中心となってきた国々をとりあげ、リープフロッグの概念から一冊でグローバル経済史をまとめた良書になっています。

21世紀中国の社会状況や経済状況も、私の体感からしてしっかり把握されている印象です。

本書の目次

細かい目次がネットで出ていないので紹介します。

  • はじめに
  • 第1章:中国急成長の秘密はリープフロッグ〔世界最先端を行く中国の電子マネー、中国では電子マネーの前にeコマースがあった、インターネットとスマートフォンで中国はリープフロッグした、中国はEVにリープフロッグする、AIとビッグデータでもリープフロッグする中国、自動運転でも中国がリープフロッグする、清華大学が最先端分野で世界一になった理由、中国でリープフロッグが起きたのはなぜか?、中国の成長はこれまでの経済発展論では理解できない〕
  • 第2章:ヨーロッパ最貧国が世界のトップに〔リープフロッグしたアイルランド、IT革命が実現したアイルランドの奇蹟、アイルランドは技術で豊かさと自由を手にした〕
  • 第3章:世界最先端にいた中国は、リープフロッグされた〔中国はかつて世界の最先進国だった 、羅針盤火薬も中国が発明した、中国の長期的衰退の原因は何か?、アヘン戦争で中国の凋落が決定的になる〕
  • 第4章:リープフロッグが次々に起きた大航海時代〔ヨーロッパは「保険」を発明し大航海で中国を追い抜いた、ポルトガルがイタリアを飛び越えて大躍進、灰かぶり姫が人類の指導者になった、新大陸を手にいれたスペイン、大銀山から産出した銀は何に使われたか?、エリザベスの艦隊がスペイン無敵艦隊を破る、オランダとイギリスの勃興〕
  • 第5章:産業革命をリードしたイギリスが、リープフロッグされる〔イギリスは電気への転換に遅れた、産業革命を経てパックス・ブリタニカの時代に、生産活動の大規模化に伴い株式会社が重要になる〕
  • 第6章:リープフロッグにはビジネスモデルが必要〔情報技術によるリープフロッグではビジネスモデルが重要、インターネットの基本的なビジネスモデルはフリー、ビッグデータによるプロファイリングでターゲティング広告、ビッグデータを入手できることこそ重要、アリペイのビジネスモデル、アリババ成功の理由は中国の事情に即したビジネスモデル〕
  • 第7章:日本は逆転勝ちできるか?〔日本の急速な工業化は超効率的キャッチアップ、政府の役割が大きかった明治の工業化、高度成長を支えた「1940年体制」、1980年代以降に世界が大きく変った、アベノミクスの期間に日本の凋落が加速、中国にはない「レガシー問題」を引きずる日本、日本型組織は深刻なレガシー、日本型組織と大学の改革が必要、逆転勝ちの可能性を信じ努力を続けよう〕
  • 索引

本書の感想

野口悠紀雄『リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』文春新書、2020年

中国のリープフロッグは留学生や妻から聞いてきましたが、アイルランドのリープフロッグは知らなかったので驚きました。ワードプレスで新規に投稿すると Facebook がボットを使って投稿をチェックしに来るんですが、最近、そのアクセスがアメリカだけでなくアイルランドからも来るようになっていて、そういうことかと納得しました。

さて、出版社の文春新書公式ページから、本書の紹介を引用します。

経済大国だった日本は、なぜ中国に追い抜かれてしまったのか?

その秘密は「リープフロッグ」にある。遅れてきた者が、先行者をカエルが跳ぶように追い越すこと。それが「リープフロッグ」だ。

中国でアリババをはじめとするテック企業が発展したのは、銀行や固定電話といった既存ネットワークが未発達だったため、eコマースとスマホを利用した新しいビジネスモデルが成長する余地があったからだ。

そして、世界の覇権争いの歴史を振り返ると、リープフロッグ=逆転勝ちの連続だったといえる。

  • 紙、印刷術、羅針盤を発明して最先端の文明を誇った中国だったが、大航海で世界にうって出たヨーロッパに追い抜かれた。
  • ヨーロッパは「株式会社」というリスク分散方法を開発して発展した。
  • 産業革命を果たして覇権を握ったイギリスだったが、電気の時代に立ち遅れ、ドイツとアメリカに追い越された。
  • インターネットの時代と「改革開放」がかみ合って、21世紀に中国が覇権を握ろうとしている。

リープフロッグの歴史に学ぶことで、日本経済復活の道を探る一冊!https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612925

『リープフロッグ』は世界史の転換グローバル経済史の転換に注目して、途上国が先進国を抜くよりも飛ぶ(飛び越える)点に注目します。

ふつう、経済史ではキャッチアップ(追いつく)に重点をおくので、グローバル経済史の転換を技術発明や技術導入から説明します。

しかし、本書『リープフロッグ』は新技術が古くなった点に注目するので、転換の意味を深く知ることができるのです。

経済史ドットコムではリープフロッグの概念でグローバル経済史を説明しています。
404 NOT FOUND | 経済史ドットコム
時間と空間で考える広視野学習サイト

産業革命・工業化

野口氏は本書で産業革命について第1次と第2次があったことを明記しています。

第1次産業革命はもちろん蒸気機関の開発と普及で、第2次産業革命は電化です。

2つは動力革命としても理解できます。

ただ伊藤元重氏のように第3次産業革命、4次産業革命と増やしていくことに私自身は反対です。本書が第2次産業革命で止まっている点に好感がもてました。

かつて、石井寛治氏は産業革命に1次・2次・3次と順番をつけていくことは革命の意義を失うとして反対していました。

ただ、蒸気機関だけに求めるというのも私は反対です。

産業革命の概念は難しい

ですので蒸気機関と電力が産業革命の2段階と考えるのが無難かと思います。

となると、産業革命動力革命が一緒になってしまう問題が残りますが。

第3次は情報化(IT革命・情報革命)と、これに関するインフラ転換(パソコンの普及やスマホの普及など)とみなすべきでしょうか…。

ただし、こう考えると動力からずれてしまうので、産業革命の定義を明確にする必要があると思います。他方、IT化やDX化をともなう情報化を「電波化」の一環とみることもできます。

情報化(IT革命・情報革命)

富や豊かさの基準

大航海時代以前と以降では、富や豊かさの基準が時代とともに変わるようになります。

おもにヨーロッパの人たちが大航海時代を経験して、航海先や植民地から新しい富を獲得するようになったからです。

当初は胡椒や山椒などの香辛料でした。それから金銀が注目されるようになり、19世紀から20世紀にかけて、洋服、自動車、耐久消費財が重宝され、いまは情報となったわけです。

大まかには、人間の富や豊さの基準はモノから情報に変化をとげました。

野口氏は、日本が情報技術で中国やアメリカに遅れているとはっきり書いています。

生産者と消費者の区別が不明瞭に

モノから情報へ、冨や豊さの基準が変わってきたから、生産者と消費者の区別がしにくくなった気がします。野口さんの本は生産者(というか社会人というか)や経営者の側の視点で述べているけど、消費者の視点からも情報化(IT化)を読むこともできますね。

マトリックス的な世界

私見では、電車でスマホに支配されている人間たちをみていると、あきらかにマトリックス的な世界が到来しています。

マトリックス的な世界とは

  1. じつは現実がシミュレーション
  2. AIの世界が現実

という二つが混ざっている状態です。

衰退した日本経済に未来はないのですから、私たちは政府に施策を尋ねるべきでしょうか。野口氏は「ノー」といいます。政府に甘える発想や政府が何かできる発想は、20世紀キャッチアップ型経済の段階だからです。

この状態のもとで、私たちはどのように情報社会を生きていくべきでしょうか。本書の提言は第7章に詳しく述べまれています。

逆転勝ちの経済学

『リープフロッグ』のサブタイトルは「逆転勝ちの経済学」。

本書の第7章に「日本は逆転勝ちできるか?」をあてて、日本で生まれ育った人たちへエールを送っています。

冷静に読めば、日本が逆転勝ちできない状況のもとで中小企業や個人がどのように生活していくかを述べています。

アマゾンのレビューを見ていると、日本が逆転勝ちできない点を「期待はずれ」のように述べるものもあるのですが、私としては意味不明。処方箋に本を使うな自分で考えろという話です。

本書が述べる逆転勝ちの経済学とは、枯れ果てた日本の未来像や経済力のもとで、中小企業や個人がどのように仕事や能力や技術をみにつける覚悟のことです。

経済学といっても玉石混交ですから、著者がいいたいのは自分で立てる展望と覚悟。経済学にも政府にも処方箋のような期待をするだけムダというわけです。

まとめ

野口悠紀雄『リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』は、経済発展をリープフロッグという概念でとらえた本です。

世界経済の歴史で中心となってきた国々をとりあげ、リープフロッグの概念からグローバル経済史をまとめています。

リープフロッグ(蛙とび)とは「飛び越える」現象のこと。これに関して、経済発展が必ずしも順序どおりに進まない点に本書は注目します。

そのうえで、ある国や地域の経済発展が途中でジャンプして、先進国を飛び越える現象を歴史からたどっています。

ふつう、経済史ではキャッチアップ(追いつく)に重点をおくので、グローバル経済史の転換を技術発明や技術導入から説明します。

しかし、本書は新技術が古くなった点に注目するので、転換の意義を深く知ることができるのです。

ですから、大学受験の世界史を勉強するときにも、リープフロッグの概念を知っておくと歴史の流れをつかみやすいです。

次の記事では、中国のリープフロッグ型経済発展の裏側で何が起こっていたかを詳しくたどり、過去30年間の中国の大きな工業化で東アジア4地域の関係が変化したことをまとめています。

最後に

最後に、日本政府ができなかったIT化について、野口氏による辛辣な皮肉を紹介して、『リープフロッグ:逆転勝ちの経済学』の紹介を終えます。

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