日本語の歴史をたどるシリーズです。今回は中古(平安時代)をとりあげます。
中古は死語になっていますが、日本語史では平安時代のことです。
上代の四つ仮名や上代特殊かなづかいは継続して使われていたと考えておいてください。
日本語の歴史:中古(平安時代)編
特徴
- 初期…漢文の全盛期でした。
- 中期…仮名文字の発明から和文資料が増えました。和文資料には、古典日本語の代表とされる『竹取物語』『伊勢物語』『源氏物語』『枕草子』『土佐日記』『古今和歌集』などがあります。
文法
動詞
下一段活用の「蹴る」が現れ、活用形式が9種類になりました。
形容詞
ナリ活用、タり活用が現れました。※タリ活用は漢文訓読文のみで使用。
のちに、ナリ活用の形容詞は「ナ形容詞」に、タリ活用の形容詞は連体詞になりました。
助動詞
①受身・可能・自発の「る/らる」、②使役の「~す/~さす」、③推量の「~めり」「~まじ」が使われました。
その他:係り結びの発達と音便の発生
係り結びの発達
係り結びが高度に発達し、強調構文として使われました。
係り結びは係助詞と特定の活用形がセットで使うもので、「ぞ」「なむ」「や」「か」と連体形、「こそ」と已然形の組み合わせです。
音便の発生
単語のなかで音韻が変化するようになりました。
たとえば
- イ音便…「咲きて」→「咲いて」
- 撥音便…「読みて」→「読んで」
- 促音便…「知りて」→「知つて」
- ウ音便…「早くて」→「早うて」
などです。
語彙
- 漢語が普及しました。たとえば、案内(あない)・消息(せうそこ)など。
- 和文語と漢文訓読語の文体上の対立がありました。たとえば、やうなり(和文)⇔ごとし(漢文)、く(和文)⇔きたる(漢文)など。
- 語彙の融合や派生によって形容詞が大量に作られました。
文字・文体
- 漢文訓読体が正式な文体…「訓点」による漢文訓読法が考案。
- 片版名が発明…おもに学僧による。漢文訓読の補助記号として万葉仮名の一部を省略したもの。
- 平仮名が発明…おもに宮廷女性による。万葉仮名のくずし字をさらに簡略化したもので、仮名には多数の異体字がありました。
- 和文体の成立…和文体つまり漢字仮名混じり文がつくられました。
音韻
- 同一母音が語中や語尾にも並ぶようになりました。
上代では脱落していました。
- ア行の「エ」とヤ行の「エ」の区別が消滅し、[je]に統一されました。
- 「上代特殊仮名遣い」の区別が緩まりました。
- 語中・語尾のハ行音がワ行音で発音されるようになりました。この現象と音をハ行転呼音とおいます。
ハ行転呼音の名残りは「私は」や「大阪へ」です。
- 音便が発生しました。一例に築垣(ついがき)。
執筆された代表的な辞書
- 『新撰字鏡』(晶住/898~901年頃)…現存最古の漢和辞書で、訓読みで書いた(説明した)辞書です。約2万の漢字について、字音・字義を漢文で、和訓を万葉仮名で記しています。
- 『和名類聚抄』(源順/931~938年頃)…全20巻からなる漢和辞書(の百科事典)です。漢字をグループ分けして(天地、人倫など)、注釈を中国の書物から引用し、漢文で書いています。
- 『類聚名義抄』(著者不詳/12世紀初頭)…漢和辞書。「仏」「法」「僧」の3部に分類。訓読みに声点(アクセント記号)を付しています。
- 『色葉字類抄』(橘忠兼/1144~1181年頃)…イロハ順になっていて、のちの辞書編纂に影響を与えた国語辞書です。和語と漢語を第一音節によって47の項目に分け、天象や地儀など21門の意義分類をした発音引き辞書。
まとめ
日本語の歴史をたどるシリーズ、今回は中古(平安時代)をとりあげました。
この時代の日本語では係り結びが発達したり、音便が発生したりしました。
中古初期は漢文の全盛期で、中期から後期にかけて仮名文字が発明され、和文資料が増えていきました。
『新撰字鏡』『和名類聚抄』『類聚名義抄』『色葉字類抄』などの漢和辞書や国語辞書です。これらから私たちは古典日本語を具体的に知ることができます。
日本語の歴史
日本語の歴史(日本語史)を総説と時代史でまとめています。
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