中国のマネー革新史:モバイル資本主義の展開

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21世紀になって、モバイル資本主義がどのようなものか、はっきり分かってきました。

民間企業ではGoogleなどの検索エンジン発の企業の動向から、国家政策では中国のように国を挙げてのデジタル革命から、モバイル資本主義が見えてきました。

モバイル資本主義の議論の課題は、世界史や経済史の事実を並べ替えて、その順序やテーマで捉えなおすことです。

そして、この議論の目的は私たちの生活を豊かにする発想を探ることです。経済史ドットコムではモバイル資本主義にもとづいたテーマ別の話題を提供しています。

ここでは、古代中国の貨幣史にさかのぼり、硬貨・紙幣・デジタル通貨を生みだしたりリードしてきた中国のマネー革新史をたどります。

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硬貨の預金や振込に手数料

2022年1月17日から、ゆうちょ銀行で硬貨を預け入れたり振り込んだりするときに手数料が必要になりました。

硬貨の種類にかかわらず、ATMで1枚から、窓口で51枚から手数料が発生します。

硬貨の取扱は紙幣よりコストがかかります。

この数年間、ゆうちょ銀行のほかに大手銀行や地方銀行も手数料を導入してきました。

硬貨の窓口入金だけ例示しますと、三菱UFJ銀行やみずほ銀行では100枚まで無料で、101枚から500枚まで550円。三井住友銀行では300枚まで無料で、301枚から500枚まで550円。

21世紀のデジタル時代に、まさか金融機関において硬貨の問題が生じるとは思いもよりませんでした。

また、2021年からみずほ銀行はシステム障害を乱発しています。当銀行に統合された複数の銀行でデジタルのシステムが違っていて、統合時にシステムを統一しなかったからと思われます。

なぜ、こんな足元をすくわれるような事態になっていたのでしょうか。

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貨幣の誕生ばかりを考えた経済史の罪

経済史の罪は貨幣の誕生ばかり調べてきたことです。三上隆三という残念な貨幣史家が有名です。

貨幣の誕生といっても金属貨幣(硬貨)として皇朝銭や円をとりあげただけで、紙幣を重視しません。紙幣の利便性もATMの時代性もデジタル通貨の利便性も考えませんでした。

貨幣の誕生だけでなく、紙幣の誕生や硬貨の死亡も視野に入れて研究してほしいところでした。

中国のマネー革新史

電子マネー(デジタル通貨)の発達

アメリカをクッションにして2010年代から電子マネーデジタル通貨)がもっとも発達したのは中国でした。

電子マネーが中国で進展したのは銀行システムが未熟だったことが理由です。口座振替やATMのように過渡的なシステムがなかったため、電子マネーは急速に中国で広まりました。

紙幣の誕生と印刷技術

紙幣が誕生した地域も中国でした。商業界において紙幣が持ち運びの労力を削減しました。

紙幣の開発は印刷技術と関係があるでしょうか。

世界で最初の本格的な紙幣は、10世紀の中国(北宋時代)で作られた「交子」だといわれています。今では当たり前に使われている紙幣ですが、紙幣をつくるためにはそもそも「紙」を作る技術と、大量の紙に文字や絵柄を記していく印刷技術が必要です。製紙技術も印刷技術も中国で発明されたものですから、世界で最初のお札が中国で生まれたのも自然の流れでした。https://manabow.com/zatsugaku/column10/

マネーにみる中国とヨーロッパ

西暦1000年頃に紙幣が発行され、中国だけが紙幣を使っていました。

マネーにおいても、中国は先進的でした。 当初、マネーは金貨銀貨のようにそれ自体が価値がある素材によって作られていました。

歴史の長期間、ヨーロッパのマネーは金属とがっちり結びついていました。

中国でも、古くは硬貨を用いていましたが、かなり早い時点で紙幣を用いるようになりました。マネーの本来の機能は情報を伝えることですから、紙に情報を記録すれば、紙幣でも十分だったわけです。

持ち運びやすさモバイル可搬性)の点で紙幣は金属貨幣より優れています。

マネーは、金属貨幣(硬貨)から紙幣へと転換してきました。

中国の製紙技術と印刷技術

ヨーロッパで登場しなかった紙幣が中国で早くから用いられるようになったのは、中国だけが紙幣を作る技術をもっていたからです。つまり、高度の製紙技術と印刷技術をもっていたからです。

マルコポーロは『東方見聞録』(1298年)で「中国の皇帝は紙をお金に換えてしまう。まるで錬金術師のようだ」と書きました。中国で電子マネーが広く普及しているのを見るような事態でしょう。

ここで中国の製紙技術と印刷技術を箇条書きでたどってみます。

中国の製紙技術と印刷技術
  • 後漢時代(105年)
    蔡倫が紙を発明
  • 唐代(8~9世紀頃)
    木版印刷スタート
  • 宋代
    木版印刷の隆盛期
  • 元代(13世紀末)
    初の木活字本
  • 1450年頃
    グーテンベルグ(ドイツ)が活版印刷術を発明
    15世紀には中国から紙の抄造法が伝来

唐の時代までさかのぼれる紙幣の使用

カビール・セガール『貨幣の「新」世界史』(早川書房、2016年)によると、すでに唐王朝において紙幣の類似物が使われていました。

先の「中国の製紙技術と印刷技術」タイムラインをみると、唐の時代には紙があって木版印刷が始まっていたわけですから、紙幣が使われはじめても不思議ではありません。

商店は客の貴重品を保管して、それを担保に紙の証書や受領書を発行しました。この証書は取引可能だったので貨幣として機能しました。

遠方と取引する茶商人たちは重い青銅貨の代わりに紙の証書を携行しました。

唐王朝は遠隔地と首都の間で貨幣を移動させる手間として「飛銭」という為替手形を作りました。これは硬貨と交換が可能で、地方政府と中央政府の決済や商人の取引に使いました。

紙幣を基礎にした世界初の貨幣制度

北宋(960~1127年)は紙幣を基礎にした貨幣制度を世界で最初に確立したといわれています。

北宋にあった現在の四川省は商業は盛んでしたが、硬貨の素材として一般的に使ったが産出されませんでした。そこで製の硬貨が使われていました。

しかし、鉄は重くて持ち運びに不便。しかもサビやすいので不人気でした。

そこで、鉄製硬貨に代わるマネーとして紙幣が考案されたのです。

まとめ

製紙技術の開発と印刷技術の向上をタイアップさせた中国では早くから紙幣が使われていました。

グーテンベルクが活版印刷を実用化して以降、本もまた持ち運びやすさやモバイルの点ですぐれたアイテムです。15世紀のヨーロッパで活版印刷が聖書に使われ、聖書の伝達方法が筆写から印刷へ変わり、やがて宗教革命がはじまります。

中国のマネー革新

2010年代に中国はアメリカを土台にして、電子マネー(デジタル通貨)を発達させました。

電子マネーが中国で進展したのは銀行システムが未熟だったからです。中国には口座振替やATMのように過渡的なシステムがなかったため、電子マネーが急速に広まりました。

硬貨や紙幣とちがって、デジタル通貨は官民の境界を越えます。

中国は政府が民間企業を包摂した政策をとりやすく、電子マネーの浸透がスムーズに進みます。

日本のマネー退化

冒頭にあげた事例のように、日本の金融機関はデジタル化をツギハギにしてきたため、簡単にシステム障害と場凌ぎの復旧をくりかえしています。また、コンビニや窓口をとわず、ATMにかかる料金も顧客に支払わせるという本末転倒の事態を招いています。

官民・官官・民民でITシステムが異なるというツギハギによって、今後も長らく綻び(ほころび)が続くでしょう。システム自由主義の致命的な弱点が出てしまったのです。

ブロックチェーン技術を搭載した送金プラットフォームを10円からから20円ほどで実現できると日本政府もマスメディアも喜んでいます。

しかし、システム自由主義の弱点を克服したうえゼロ円にしないと、送金プラットフォームは20世紀の自動振込システムのように面倒なものとなりそうです。ゼロ円でない以上、金融機関が手数料ビジネスで国民から巨額の金をまきあげるシステムが温存(再生産)されるかもしれません。

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