日本語の歴史:上代(飛鳥~奈良時代)編

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日本語の歴史をたどるシリーズです。今回は上代(飛鳥・奈良時代)をとりあげます。

上代は死語になっていますが、日本語史では飛鳥時代から奈良時代までの時期です。

ですから、奈良県橿原市に藤原京があった時期(藤原時代)も上代に入ります。

しかし、その前後の時期、飛鳥時代と奈良時代が有名すぎるので忘れられやすい橿原はなかなか不遇な歴史をもっています(苦笑)。

日本語の歴史:上代(飛鳥・藤原・奈良時代)編

上代の日本語を調べるには『古事記』『日本書紀』『万葉集』などの資料にもとづきます。

特徴

  • 漢字導入以前は文字資料に乏しく不詳です。
  • 漢字導入後、万葉仮名(真仮名/まがな)による資料があります。『古事記』『日本書紀』『万葉集』など。

文法

動詞

上代の動詞には8種類の活用がありました。

  • 四段活用
  • 上一段活用
  • 上二段活用
  • 下二段活用
  • カ行変格活用
  • サ行変格活用
  • ナ行変格活用
  • ラ行活用

これら8つの活用は現在の国語教育へ編入されています。

  • 四段・ナ変・ラ変が五段活用(第1グループ)へ
  • 上一段・上二段・下二段が一段活用(第2グループ)へ
  • カ変・サ変が変格(第3グループ)へ

形容詞

ク活用とシク活用の2種類がありました。

助動詞

尊敬の「~す」、継続の「ふ」が特徴的な形式としてありました。受身・可能・自発を意味する「~ゆ/らゆ」や使役の「~しむ」がありました。

その他

格助詞が未発達でした。

語彙

和語(やまとことば)が大部分を占めました。和語は2音節語が基本でした。

漢語・梵語・朝鮮語から借用がはじまりました。「馬」「梅」「菊」などは漢語、「瓦」は梵語、「寺」は古代朝鮮語です。

むかし、テレビ番組「世界ふしぎ発見」で、建築物の地理的を特集していました。東アジアは屋根を強化し、西アジアは壁を強化する傾向があるとのこと。

文字・文体

漢字が伝来しました。

それとともに万葉仮名を用いた和語の表記が開発されました。

たとえば、

  • 「八間跡」→「ヤマト」
  • 「波奈」→「ハナ」
  • 「名津敷為/夏歴」→「なつかし」
  • 「山上復有山」→「出(る)」

などです。

また、漢文体(正式)と宣命体(助詞・助動詞などを万葉仮名で小さく書き添えた文体)も開発されました。

音韻

同一母音が連続すると脱落

同じ母音が語中や語尾に並びませんでした。語が複合して母音が連続すると、母音が脱落しました。

たとえば、「なが」+「あめ」→「ながめ」です。

「なが」の「あ」と「あめ」の「あ」が連続するので一つが脱落。

頭音法則

上代では、語頭にラ行音や漢音がほとんど現れませんでした。これを頭音法則といいます。

ハ行子音は両唇音のΦで発音しました。「p」が「Φ」へ変化したわけです。

もともと「p」だったと捉える理由は、古代から中国語がずっと両唇だったという説からです。

えとゑ、エとヱの区別

ア行の「エ」とヤ行の「エ」の区別がありました。ヤ行は平仮名が「」、片仮名が「」。

上代特殊かなづかい

ついで、ややこしいのですが、「キ・ケ・コ・ソ・ト・ノ・ヒ・ヘ・ミ・メ・ヨ・ロ」「ギ・ゲ・ゴ・ゾ・ド・ビ・ベ」には甲類乙類の2種類で表記しました。上代特殊かなづかいというものです。

上代特殊かなづかい(上代特殊仮名遣い)とは仮名の使い分けのことです。

たとえば「髪」は「可美」と書き「神」は「可未」と書きました。逆はありません。

くわしくは、上述の文字を万葉仮名で書くときに音の違いを反映して書き分けることです(『古事記』には「モ」の書き分けもあり)。

後世の「いろは」47仮名で区別されなかった音を上代には使い分けていました。このため「特殊」といいますが、上代の音韻組織がのちの日本語よりも複雑だったわけです。

後代の人たちで上代の書き分けに気づいた人たちが日本語研究史で知られています。

気づいたのは本居宣長で、石塚龍麿が実例を収集整理しました。

近代になって研究が活発になりました。書き分けの基準が上代発音の区別にもとづくと明らかにしたのが橋本進吉「上代の文献に存する特殊の仮名遣と当時の語法」でした。

四つ仮名

四つ仮名とはジ・ヂ、ズ・ヅのことで、それぞれ、ジとヂ、ズとヅの音が異なっていました。

時代とともに語彙が増えたため、四つ仮名も複雑になっていきました。

1695年に『蜆縮涼鼓集』が出版されました。本書は四つ仮名の書き分けだけを専門に扱ったものです。この出版をもって、日常生活で四つ仮名が同音になった時期が17世紀末と推定されます。

20世紀には語源から使い分けることがかなり負担となったため、1986年に公布された「現代仮名遣い」で、基本的には「ジ」「ズ」で表記する指示が出ました。

四つ仮名の消滅は近代日本語の特徴の一つです。

まとめと関連情報

上代は飛鳥時代・藤原時代・奈良時代で構成されています。

要約

今回とりあげた内容を要約します。

  • 漢字導入後の万葉仮名(真仮名)による資料あり。
  • 動詞…8種類の活用あり。
  • 形容詞…ク活用とシク活用の2種類あり。
  • 助動詞…尊敬「~す」、継続「ふ」、受身・可能・自発「~ゆ/らゆ」、使役「~しむ」。
  • 格助詞…未発達。
  • 語彙…ほとんど和語で2音節語が基本。漢語・梵語・朝鮮語からの借用スタート。
  • 複雑な音韻…同一母音が連続すると脱落。頭音法則、四つ仮名、上代特殊かなづかいが存在。

続きは「日本語の歴史:中古(平安時代)編」で展開しています。

橿原市について

奈良県橿原市に藤原京があった時期も上代に入りますが、その前後の時期、飛鳥時代と奈良時代が有名すぎるので橿原はなかなか不遇の歴史をもっています。

奈良県橿原市を故郷とする私には、橿原の不遇はアイデンティティを考えるきっかけになりました。

ブログ「飛鳥をめぐる」紹介

さて、橿原と飛鳥は隣接しています。行政名称はそれぞれ、奈良県橿原市と奈良県高市郡明日香村大字飛鳥あたりです。

その辺りの近況と歴史風景を伝えるブログをご紹介します。

自前の写真で、奈良市とは異なる飛鳥・橿原から「古都奈良」を紹介する親子ブログ「飛鳥をめぐる」です。hashさんが運営されています。

今回、「日本語の歴史:上代(飛鳥・奈良時代)」を書くにあたり、写真をお貸ししてくださいました。

奈良や飛鳥好きの方々はぜひご覧ください。

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